第20話 最強カード ブラックカード

 その後伊織は学校で勉強していくと言っていたので、校内で伊織とは別れた。


 伊織と別れた後は寧々と清子と一緒に、駅前のゲームセンターに向かう。

 季節はどんどん夏へと向かっていき、その分日も長くなっている。


 空はまだ青空が覗いていて、これからもっと暑くなるのかと考えると気が滅入る。

 日が当たっている間はまだ暑いので、寧々なんかは第二ボタンまで開けて涼を取っている。


 ブラウスの間から見える谷間はたとえ、男の娘と分かっていてもドキドキしてしまう。


 男は谷間には抗えない生き物である。


 清子は模範生のように第一ボタンまで閉め、ネクタイを締めている。

 翼は模範生ではないので学校を出た瞬間にネクタイを取り第二ボタンまで開けている。


 なにも知らない人が見れは女子二人をはべらせているリア充野郎に見えるが、現実を知っている翼は少し残念だった。


 この二人が女の子だったらこれからラノベのようなハーレム生活が待ち伏せているだろうが二人は男の娘だ。


 つまりこの状況は、男子一人に男の娘二人だ。


 なかなか異色な組み合わせである。


「九条院。さすがにお金の使い方が分からないわけではないでしょ」


 なぜ今日、清子と一緒に出かける理由を寧々に話したら、寧々は信じられないような目で清子を見て、ため息を吐いた。


 その感想は昨日、翼が思ったことと同じだった。


 さすがに高校二年生にもなってお金の使い方が分からないのは色々とヤバイような気もする。


「すみません。いつも支払いはメイドの仕事で私はブラックカードでしか支払ったことがないんです」


 清子は寧々に申し訳なさそうに説明する。

 これが清子でなければ、金持ちを自慢している風にしか聞えない。


「ブ、ブラックカードってクレジットカードの最高峰じゃない」


 予想通り、寧々は清子のブラックカードに驚く。

 翼も最初ブラックカードを見た時、初めてブラックカードの実現を信じたほどだった。


 あのブラックカードを隣のクラスの同級生が持っているなんて信じられるだろうか。


「お父様はこのカードさえあれば一人でも生きていけると言っていましたのに。使った分は補充してくれると言ったのにこのカードだけでは生きていけません。嘘つきです」


 清子はプンプンと可愛らしく文句を言う。


 いや、それは間違っていないと思うぞ九条院。


 翼は心の中でつっ込みを入れる。


 このカードがあれば、親がお金を補充してくれる限りニートになっても生きていける。


 今回はたまたまカードでの支払いができないところだっただけであって、清子の考えは庶民の翼とは少しずれている。


「……なんなのこの経済格差は」


 寧々ですら驚きを隠せずに絶句している。


「でも今回は大丈夫です。メイドの田辺に言って現金を下ろしてもらいました。清子に死角なしです」


 今回は自信満々にポケットの中に入っている財布を撫でる清子。

 今言ったことから分かるとおり、清子は翼が想像できないぐらいの金持ちだ。

 自信満々の清子だが、翼は不安を隠せない。


「……ねぇー翼。本当に大丈夫なの」

「……分からないけど九条院を信じるしかないだろ」


 寧々も清子の自信に不安だったのか、翼の耳元で不安を吐露する。

 ここは清子の自信を信じるしかないだろう。


「どうしたんですか斉藤さん、桐谷さん」


 清子はいきなりヒソヒソ話を始めた二人を怪訝そうに見つめている。


「別になんでもないわ。それよりその『斉藤さん』って止めてくれる。あたし、苗字より名前の方が好きだから」

「分かりました。では寧々さん」

「ありがと……清子」

「……ポッ」


 多分寧々と清子は今日が初対面なはずなのに、すぐに下の名前で呼び合うような関係まで進展した。


 さすがリア充の中のリア充。


 コミュ力がハンパない。


 寧々に下の名前で呼ばれた清子は嬉しそうに頬を赤く染めている。


「なんか下の名前で呼び合うのはドキドキしますね」


 清子はあまり下の名前で呼ばれることがないのだろう。

 確かに清子の名前は名前よりも苗字の方が恰好良い気がする。


「なんか清子って変」

「私、変ですか」


 いきなり寧々に変と言われて動揺する清子。


「別に悪い意味で言ったわけじゃないの。なんか感性がおもしろいな~って」


 清子が気を悪くしたと思ったのだろう。


 寧々が慌てて訂正を入れる。


 感性がおもしろいって良い意味なのだろうか。


 リア充の価値観は分からない。

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