第18話 たった十一字の言葉

 同時刻。


 斉藤寧々は翼と同じようにベッドの上で翼にラインを送っていた。


「こんなラインで大丈夫かな」


 ラインを送ったばかりの寧々は頬を赤くしながら少し不安になっていた。


 今までラインを送るのにこんなに緊張したことはなかった。


 だから少し寧々自身も戸惑っている。


「あぁ~最初だからもっと硬い方が良かったかな。でももっと仲良くなりたいし、こんなにフランクで良かったかな」


 寧々は一人ベッドの上でブツブツと呟く。


 もし、ここに誰かいれば引かれるぐらい大きな独り言だった。


 クラスにいる翼は大して目立たない奴た。


 当然、寧々も翼なんて意識すらしていなかった。


 でもあの日の放課後。見知らぬ不良に絡まれている時、翼は助けてくれた。

 その時の寧々と翼はただのクラスメイトの関係だ。


 もし立場が逆だったら見てみぬふりをしていただろう。


 誰だってトラブルに巻き込まれるのは嫌だ。


 それなのに翼は自分を助けてくれた。


 なんの見返りも求めずに。


「……っていうかなんであたしが翼のことを考えて思い悩むのよ」


 寧々は行き場のない怒りをぶつける。


 なんで今自分がこんなにもドキドキしているのか。


 そしてこの感情がなんなのか。


 まだ初恋をしたことがない寧々には分からない気持ちだった。


「あっ、返信が来たわね」


 今までの不安が一変、翼の返信が来ただけで舞い上がる寧々。


『分かった。俺は大丈夫だ』


 たった十一文字の言葉。


 それだけなのに翼から返信されたと考えると胸の奥が温かくなるのはなぜだろう。

 寧々の頬は知らず知らずのうちに赤くなっていた。


「どうしよう。なんて返そう。さすがに既読スルーはダメよね」


 スマホを見ながら寧々はブツブツと呟く。


 もしここが公共の場なら通報されていたかもしれない。

 できるだけフランクに。でも慣れ慣れすぎないように。

 寧々はその境界を意識しながら、自然体で文字を打ち込んでいく。


『ありがとう翼。

 じゃー放課後よろしくね。

 また明日。おやすみ~』


 寧々は送信ボタンを押してから、改めて自分の送ったラインを見て悶絶する。


 おやすみ~ってなによ。まだ翼は寝ないかもしれないじゃない。


 それにまだ友達になってあまり話したことがないのに気安ぎない。


「……ってなに一人で浮かれてるのよ。柄じゃないじゃない」


 数分後。少し冷静になった寧々は自分に呆れる。


 ライン一通送るのに一喜一憂するなんて、まるで恋する乙女ではないか。


 それになぜかラインは既読されない。

 もしかして少しウザすぎたのだろうか。


 今日も清子と一緒に教室の外に出て行く時だって睨んでしまった。


 別に睨みたかったわけではない。


 清子が翼と出て行く時、言葉では表せないようなモヤモヤというか胸が締め付けられるように苦しかった。


 幸い寧々の友達には気づかれなかったが、それを自覚した時自分で自分が嫌になった。

 嫉妬する人は醜いって言うけれど、確かにあの時の自分は醜かった。


「ダメよあたし。嫉妬は人を醜くするんだから」


 寧々は自分に喝を入れるため三回ほど自分の頬を叩く。

 そのせいで頬が手の形に赤くなってしまったが、そのおかげで少し目が覚めた。


「これからは嫉妬しないように頑張ろ。あんな嫉妬した醜い姿、翼に見られたら恥ずかしくて死ぬ」


 寧々は言葉にして自分を戒める。


 再び、ラインを見るがまだ翼は既読していなかった。


 それを見て落ち込んでしまうのは、それぐらい寧々の中で翼の存在が大きいことを意味していた。


 寧々の心はモヤモヤしていたが、もう夜も遅いのでそのままベッドに入り眠りについた。

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