第15話 九条院清子 男の娘

「私二年の九条院清子と申します。あの九条院の一人息娘(むすこ)です」


 近くのベンチを見つけるとまず二人で並んで座った。


 その後クレープを食べ終えると清子が自己紹介を始めてきた。


 九条院清子は黒川高校の二年生である。しかも男の娘。

 身長は百六十前半。

 髪は美しいプラチナブロンドをしており、まるで秋に実り夕日に照らされた稲穂のように綺麗だった。

 お嬢様のような縦ロールはどのようにセットしているのか翼では想像もできなかった。

 胸は膨らみがほとんど見当たらず推定Aカップだろう。

 長く伸びる手足はまるで芸術品のように綺麗で、肌もきめ細かく美しい。

 目は垂れ目で柔和なイメージを与える。

 体は全体的にスレンダーで肉付きはないものの、引き締まったシャープな体だった。

 しかも清子はあの九条院の一人息娘である。

 九条院と言えば日本トップのIT会社である。

 日本国内で使われているハードウエアやソフトウエアの約九割が九条院の会社が作っているものだ。

 つまり、九条院はとても影響力がありお金持ちである。


「俺は二年の桐谷翼。もしかして二組じゃないのか」


 友達が少ない翼にとって同じクラスにでもならなければ、他の生徒との接触なんてほとんどない。


 こんなに目立つ容姿なら同じクラスにいればすぐに分かるだろう。


「はい。私は一組です。桐谷様」


 清子は柔和な笑みを浮かべてながら答える。


 ……桐谷様?


 初めての『様』付けに内心困惑する翼。


「様はいらないよ。同級生なんだし」


 翼は慌てて様付けを取りやめるように清子に話す。

 生まれて初めて様付けで呼ばれたが、優越感よりも羞恥心の方が大きい。


「そうですか。すみません桐谷さん」


 清子はなぜそう言われたのか分かっていないかのように首を傾げるも、それが翼の嫌なことだと察し、すぐに訂正してきた。


 なんてお利口な男の娘なのだろう。


 寧々とは大違いである。


 でも寧々には寧々の良いところがあるのでどちらが上かという問題ではない。


「さきほどは助けていただき誠にありがとうございます」


 清子は立ち上がると、礼儀正しく頭を下げる。

 その恭しい態度に翼の方が恐縮してしまう。


「このご恩は必ず明日お返しします」


 清子は前のめりになりながら、力強く翼の目を覗き込む。

 たった四百円でこんなにも感謝されると、嬉しさよりも逆に居心地が悪い。


「明日返してくれれば俺はそれで良いよ」


 とりあえず、清子を立たせっぱなしにさせるのも気が引けるので一回ベンチに座らせる。


「でもこのカードも使えないですよね。お父様に文句を言わなくちゃ」


 清子は頬を膨らませながらブラックカードに怒りをぶつける。


「ちょっと待て九条院。そのカードはホント凄いものだから。俺みたいな庶民には一生手に入れられないカードだから」


 翼は慌てて清子を宥める。


 今の清子なら怒りに任せてブラックカードを捨てる勢いがあったからだ。

 そんなことをすれば確実に悪用され、悲惨的な未来しか見えない。


「ですがこのカードではクレープ一つ買えませんでした」


 やはりブラックカードでクレープが買えなかったことにご立腹なのだろう。

 清子の怒りの火は消えていない。


「だがな九条院。俺が持っているお金よりももっと高いものがこのカードでは買えるんだぞ。ぶっちゃけそのカードの方が凄い」


 翼は必死にブラックカードの凄さを説くが、いまいち清子には伝わっていないようだった。


「ではお礼にこのブラックカードを差し上げます。これを四百円のお礼として受け取ってください」

「ダメダメ。そんなの受け取れないって」


 素でブラックカードを渡そうとする清子に、翼は本気で止めにかかる。


 そりゃー確かにブラックカードは魅力的だが、それは絶対にもらってはいけないものだと翼にも分かる。


 そして、このブラックカードの意味を理解していない清子にも問題がある。


 まさかここまで清子が世間知らずだったとは。


 翼は心の中でため息をこぼす。


 今まで小銭や札のお金を使わないで生きてきた高校生がいることに驚きを隠せなかった。


「分かりました。では明日必ず四百円をお持ちします」


 翼に断られたことがショックだったのか、声に覇気がない。

 これで少しはこのカードの凄さや意味を理解してくれると良いのだが。


「まぁーそこまで意気込まなくても良いんだけど」


 清子のあまりの意気込みに若干翼は引いていた。

 でも少し清子と話しただけでもネコババするような性格ではないだろう。


「では今日はこれで失礼しますね桐谷さん。さようなら」

「あぁー、じゃーな」


 クレープを食べ終えた以上、ここにいる必要はない。

 清子は礼儀正しく、頭を下げて挨拶をすると大通りを歩いて帰っていく。


 翼も軽く挨拶をすると、清子とは別の方向に歩みを進める。


 残念ながら今回助けた子も女の子ではなかったが、とても甘い時間を過ごした翼だった。


 それはまるで、清子が食べたクレープのように。

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