第11話 リア充と中二病

「そうだったんだ。翼ちゃんもあまり無理しちゃダメよ。いつもラノベ主人公のように上手く助けられる保障なんてないんだからね」


 伊織は初めてこの話を聞いた風を装い、ちゃっかり翼を注意する。


「伊織。そんな話をすると―――」

「桐谷ってもしかして中二病?」


 そんなことを話したら自分が中二病ということがバレテしまうのに。

 翼は学校では普通の男子高校生を演じていたのに。


 今の伊織の発言で台無しである。


 しかも聞かれたのがあのリア充王、斉藤寧々だ。


 すぐに翼が中二病ということが拡散されてしまうだろう。


「へぇー桐谷って中二病なんだ」


 ほれ見ろ。


 この蔑んだ寧々の目を。


 翼がこれからの高校生活をどのように乗り切ろうかと思案していると意外な言葉が寧々から発せられる。


「やっぱり男子って中二病が多いのね」

「……えっ」


 あれ、おかしいな。てっきり蔑んだ目で罵倒されると思っていたのに。


 むしろ、寧々の口調はむしろ肯定的だった。


「お前、俺を蔑まないのか」

「なに馬鹿なことを言ってんの。前のクラスも中学の時も中二病の男子なんていたし、むしろ男子って中二病なところあるでしょ。だから中二病ってだけで蔑まないわよ」


 中二病でないところで寧々に馬鹿にされたが、そんなのはどうでも良い。

 まさか伊織や怜奈意外に中二病のことを受け入れてくれる人がいるなんて。

 自分でもラノベ主人公になりたいと思っている辺りから中二病な気もしていたが、まさかここまで肯定的に捉えてくれるなんて思わなかった。


「お前って良い奴だな」


 翼は思わず寧々の手を握り、ブンブンと縦に振る。

 それぐらい、翼は自分の中二病を受け入れてくれてくれたことが嬉しかった。


「……こいつなんなの」

「あはは、翼ちゃんはこういう人だから」


 寧々が助けを求めるように伊織を見るが、伊織は苦笑いをして受け流した。


「……あの時は恰好良いと思ったのに」

「……なんか言ったか」

「なんでもないわよ。いつまで手を握ってるのよ。さっさと離しなさいよ」


 寧々がなにか言っていたような気もするが、翼は嬉しすぎて聞き逃してしまった。

 だから、聞き返して聞こうと思ったのに逆に寧々に怒られてしまった。


 理不尽だ。


 寧々は力ずくで翼の手を振りほどく。


 その時、頬が赤かったのはきっと力みすぎたせいだろう。


「でも昨日は助かったわ。ありがとう」


 本当にただお礼を言いたかっただけなのだろう。

 昨日も言われたが、あの時寧々は本当に困っていたのだろう。

 だからこそ、こんなにも寧々は翼に感謝をしているのだろう。


「いや、困っている人間がいたら助けるだろう。なんだって俺はラノベ主人公に憧れてるんだから」

「はいはい、それじゃーね。でも自分の体はもっと大切にしなさいよ」


 寧々は呆れ顔で去っていく途中、急に真面目な顔で翼に忠告してきた。

 寧々の意外な優しさに触れて心が温かくなるが、当の本人はもうすでにリア充グループの中に交じり、楽しそうに談笑していた。


「斉藤さんって意外にも優しいところがあるんだね」

「俺も初めて知った」


 伊織と翼は寧々の優しさに戸惑いながらも、嫌ではなかった。


 寧々の違う一面を見た翼は、ただ威張っているリア充ではなく口は悪いがちゃんと人のことを思いやれる優しさを持ったリア充へと寧々の評価を修正した。

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