第7話 リア充への偏見

「おい、こんなところでなにしてんだ」


 翼は大きな声で相手を挑発する。


「あぁーなんだ兄ちゃん」


 不良男の一人が翼の存在に気づき、睨んでくる。

 不良らしく、リーダー格の男はスキンヘッドだ。


「……桐谷」


 女子高生がまるで信じられないものを見るような目で翼を見ている。

 薄暗くて女子高生が誰か分からなかったが、近くで見たらクラスメイトだった。


 翼のクラスのボス、斉藤寧々だ。


 ……って寧々は男の娘のはずじゃないか。


 寧々を見ると男の娘を示すネクタイが取られている。


 黒川高校では男の娘の制服は、ブレザーにスラックス、もしくはスカートである。

 でもホルモンバランスの影響か、スラックスよりもスカートを選ぶ男の娘が多く、女子と見分けるため男の娘はネクタイを締める決まりになっている。


 ちなみに寧々は今、スカートを履いている。


 でもここは校外だ。


 ネクタイやリボンなんてただの邪魔にしかならない。


 だから基本生徒は学校の外に出るとみんなネクタイやリボンを取ってかばんの中に入れる。


 だから男たちは寧々を男の娘ではなく女の子と勘違いしたのだろう。

 もし男の娘ならここまで手荒な真似はしなかっただろう。


「お前、この女と同じ高校か」


 寧々と同じ制服を着ているから高校がバレテしまったが別に今はどうでも良い。

 翼がこの男たちと戦って勝てる見込みはほとんどない。


「おまわりさん、こっちです。助けてください」


 翼は大通りに向かって大きな声で叫ぶ。

 その瞬間、男たちの体が一瞬緊張でこわばる。


 もちろん、こんなのはハッタリだ。

 でもその一瞬を翼は見逃さなかった。


 翼は一瞬で寧々と距離をつめると、男たちから寧々をひったくる。


「走れ」


 翼は寧々の手を引きながら大通りに出て、人ごみの中に紛れる。

 枯葉を隠すなら森の中のように人が隠れるなら人ごみの中が一番有効的である。

 翼は寧々の手を引きながら思いっきり大通りを走る。


 途中、通行人とぶつかってしまったが適当に頭を下げて謝った。

 その後適当なコンビ二の中に入り、店の奥の方に行き、追ってきていないか確認する。


 しばらく待ってみても男たちの姿は見えなかったのでどうやら上手くまけたらしい。


「いつまで手握ってんのよ」


 男たちから逃げられたことに安堵したのか、急に寧々の調子が戻る。


「あっ、ごめん」


 せっかく助けたのに怒られるなんて理不尽だと思うが、この時はそんなことを思う余裕もなく、反射的に謝ってしまった。


「でも助かったわ、ありがと」


 一応寧々にも常識はあるらしい。

 ぶっきらぼうだったがちゃんと翼にお礼を言った。


「いや、別にたいしたことないよ。それよりも斉藤は一人なのか。珍しいな」

「はぁー、別にあたしが一人なんて珍しくないでしょ。途中までは亜美と一緒に帰っていたんだけど帰る道が違うから別れただけよ」


 翼はただ疑問に思ったこと言っただけなのに、なぜか寧々にあきられてしまった。


 寧々はクラス一のリア充だ……と翼は思っている。


 その寧々が一人でいる姿はなんだか新鮮だった。


「そうなんだ。てっきりリア充っていつも一緒につるんでいるイメージがあったから」

「……リア充だからっていつもみんな一緒にいるわけないでしょ。お前の家族だって四六時中一緒にいるわけじゃないでしょ」


 翼は今までリア充はいつも一緒につるんでいるイメージがあった。

 放課後は一緒にカラオケに行ったりゲームセンターに行ったりして青春を謳歌している生物だと思っていた。


 でもリア充の寧々を見て、必ずしも一緒にいるわけじゃないんだなと分かった。

 確かに家族で例えられると分かりやすい。

 家で毎日過ごしていても怜奈も学年が違うせいもあり学校での怜奈は知らない。

 伊織もどのように彼氏と過ごしているか分からない。

 もしかしたら自分は少し、リア充に夢を見ていたのかもしれない。


「悪い、リア充もいつも一緒じゃないんだな」

「当たり前よ」


 助けてあげたのにお説教を受けている翼。

 寧々は怒りを込められた声で肯定する。いや、少し呆れも入っているかもしれない。

 コンビ二の中で寧々が大きな声を上げたこともあり、お客さんから白い目で見られる。


 この視線はなかなか痛い。


「っていうかなんで股間を蹴り上げなかったんだ。足は押さえられていなかったんだから股間を蹴り上げることぐらいできただろ。そうすればもっと簡単に逃げられただろうに」


 あの時寧々は手は押さえられていたが足は押さえられていなかったし普通に蹴りが入る距離にいた。


 あんなに威勢の良かった寧々のことだ。


 恐怖で縮こまって体が動けなかったわけじゃないだろう。


「だって股間を蹴り上げたら痛いじゃない。さすがにあたしもあの痛みを知っているから躊躇しちゃって」


 寧々は翼から視線を外し、太ももの内側をスリスリ合わせながら言う。

 こんなに可愛くギャルギャルしい恰好をしていても寧々は男の娘だ。


 つまり下半身に男と同じものがついている。


 だから女子には分からない男子の痛みを知っている。


「……お前って結構優しいところあるんだな」

「はぁー、それどういう意味」


 翼的には褒めたつもりだったのだが、なぜか寧々に睨まれてしまった。


 こいつ少しキレやすいんじゃないのか。


 若者のカルシウム不足を実感する翼だった。

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