第6話 翼は友達が少ない

「翼ちゃんも齋藤さんに突っかかっちゃダメだよ」


 寧々がいなくなると、伊織は翼のことを心配に思い注意する。


「それは俺があいつよりカーストが低いからか」


 伊織がせっかく翼の味方をしているのに皮肉しか出てこない。


 自分でも分かっている。


 オタクの自分ではリア充にはなれないっていうことを。


「そんなつもりで言ったんじゃないよ。ただ私はせっかく齋藤さんとクラスメイトになったんだから仲良くしようよって言ったんだよ」


 伊織はどちらかというと社交的な性格だ。


 そのため、クラスにも翼以外の友達はたくさんいる。

 それに比べ、翼が学校で話す相手といえば伊織か怜奈ぐらいしかいない。

 伊織は他に友達がいるのにも関わらず、学校にいる時間の半分を翼と一緒に過ごす。

 それはもしかしたら哀れみから来ているのかもしれない。


 そう思うと、翼は少しだけ伊織に申し訳ないと思う。


「……俺には伊織がいるから良い」

「もうーそんなこと言っちゃってー」


 伊織はため息を吐くが、別に嫌そうではなかった。


 翼は友達が少ない。


 それは確かにラノベ主人公気質なのだが、現実は辛い。


 友達がたくさんいるリア充グループが輝かしく見えてくる。

 ラノベ主人公はどういうわけか、友達が少ないボッチなのに女の子の友達がいきなり増えてくる。


 でも今の翼の状況は伊織と怜奈ぐらいしかまともに話せる異性はいない。

 普通に考えるとラノベ主人公のように好意を持つ女の子が集まる方が異常だ。

 翼のラノベ主人公の道はまだまだ遠そうである。




 放課後。


 春の夕暮れ時は、まだ肌寒い。

 日中は日差しが暖かく過ごしやすい季節なのだが、夜はまだ少し過ごしにくい季節である。


 基本伊織は彼氏と放課後デートに行っている。


 伊織の彼氏は他校だ。


 つまり、学校の時間帯はお互い学校が違うためイチャつくことができない。

 だから放課後は毎日のようにデートをしているらしい。


 そのため、もう伊織は教室にはいない。


 つまり、翼はボッチ状態である。


 怜奈には怜奈の友人関係があり、さすがに兄としてもそれを邪魔することはできない。


 だから放課後は一人で帰ることが多い。

 昇降口でローファーに履き替え、一人で家に帰る。

 周りを見れば友達を一緒に帰るリア充グループばかり目が入る。


 きっとリア充グループは幸せなのだろう。いつも一人で帰っている翼とは違って。


 あれ、おかしい。目に涙が。


 きっと夕日が眩しすぎるせいだろう。


 決してリア充グループが羨ましかったわけではない。

 今日はラノベの新刊が出るので翼は駅前まで足を運んだ。

 駅前はやはり人で溢れかえっている。


 特に多いのは学生だ。


 翼もその学生の一人なのだが、やはりというか一人で帰っている学生よりも友達と一緒にいる学生の方が多かった。


 意外にも男女グループが多いのは驚いた。


 まさにリア充そのものである。


 そんなリア充グループを横目で睨みながら、某アニメショップで新刊のラノベを三冊ほどかってカバンにしまった。

 これで今日の予定も終わったので一人家に帰る。

 後は怜奈が来るまで宿題や新刊のラノベを読んで、皿を洗いお風呂に入り寝る前までラノベを読んで翼の一日は終わる。


 いつも通り、なんでもない日常。


 それがつまらないわけではないが刺激がない。


 だって翼は高校生だ。


 高校生になればもっとラノベのような刺激的な人生を送れると思ったのに。

 そんなことを考えながら歩いていると、路地裏から叫び声が聞えた。


「ちょっと離しなさいよ」

「良いじゃないかお譲ちゃん。俺たちと一緒に楽しいことしようぜ」

「すぐに終わるから」

「離せって」


 路地裏では大の男が嫌がっている高校生ぐらいの女の子の手を乱暴に掴んでいる。


 男の数は三人。


 それに対して女の子は一人。


 どう考えても女の子の方が不利な状況だ。

 それにしてもあの女の子、とても威勢が良いな。


 翼は女子高生に感心するも、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんなので、ここは見なかったフリをしようとする。


「ちょっと、どこ触ってるのよ」

「良いだろ、減るもんじゃないし」


 女子高生は両手首を掴まれ上に引っ張られ、宙ぶらりんの状態になっている。

 その無抵抗な女子高生に男たちが胸を揉んでいる。

 いくら男女共用化、性の無差別化が進んだこの国でも、お互いの了承なしに触るのは犯罪である。


 男に胸を揉まれて涙を我慢しているのだろう。

 唇を噛んで涙をこらえている。

 ラノベの主人公がこんな場面を見たらどういう行動を取るだろうか。


 そんなのは簡単だ。


 例え勝ち目がなくても、助けに行くだろう。

 見て見ないフリなんて絶対にしない。

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