第4話 やはり俺が住んでいる世界は間違っている

「別に他校だし。それに翼ちゃんとの付き合いはオッケーもらってるよ」


 伊織はあっけらかんと話す。

 伊織には他校に彼氏がいる。

 伊織の彼氏とはほとんど面識がないが、気配りができるイケメンだ。


「でも最初は渋い顔されたけど家族ぐるみの付き合いと説明して最後にキスしたら許してくれたよ」


 伊織は翼のことを説得した時の経緯を話す。


 もちろんその場には翼はいないがキスされただけで信じるなんて、その男チョロ過ぎるのではないだろうか。

 それに伊織の唇を見て、もう彼氏と何度もキスをやっていると考えると複雑な気持ちである。


 まるで嫁に出す父親の気分である。


 翼と伊織は親娘でもなければ血の繋がりもないのだが。


「お前の彼氏チョロすぎるだろ」

「そんなことないよ。私のことを大切に思ってくれている優しい彼氏だよ」


 恋は盲目と言われる。

 伊織はその彼氏にぞっこんである。


「初めて私を抱いてくれた夜も優しくしてくれたし」

「おい待て伊織。朝からそんな下ネタぶっこんでくるな」


 こいつはもう処女ではない。


 非処女だ。


 二年生に上がる前の春休み、彼氏とヤッたらしい。


 しかも伊織は恥ずかしがるどころかまるで彼氏の凄さをアピールするかのように翼に語ったのだ。怜奈の前で。

 怜奈は初めて聞く生エッチに興味津々に伊織の話を聞き、翼は聞いているだけなのに恥ずかしくなりあまり覚えていない。


 普通ラノベだったら幼馴染は主人公が好きでも実らない不遇のポジションである。


 もちろん、処女だ。


 それなにの翼の幼馴染である伊織は他校に彼氏がいて、もう処女ではない。


 なんでだ。


 どうしてこんなにも世の中は上手くいかないんだ。


 翼はあまりにも理不尽な世の中を嘆く。


 この世界がラノベなら確実に伊織は翼のことが好きな異性なのに。


「ちょっと翼ちゃん。少し神経質すぎない。高校生なんだからこれぐらい当たり前だよ」


 なぜか翼のほうがお説教をされてしまった。


 間違っているのは俺の方なのか?


 翼は自問自答してみるが、答えが出ない。


「お兄ちゃんもこの年でエッチなことぐらいで騒がないの」


 年下の妹にまでも諭されてしまった。


「いやいやお前ら、普通幼馴染なら俺のこと好きになるだろ。世のラノベの幼馴染はみんな主人公のこと好きだろ。どうして伊織は俺じゃない男を好きになったんだ」


 翼が伊織と怜奈に向かって嘆く。この不条理な世界を。


「翼ちゃんのことは好きだよ。でも彼氏と翼ちゃんの好きは違うよ」

「お兄ちゃんもいい加減理解しなさい。二次元と三次元は違うんだよ。それに自分が主人公ってちょっと痛い」


 伊織には苦笑いをされ、怜奈には引かれてしまった。

 そんな対応をされた翼は愕然とする。

 そんなに自分の考えは間違っているのか。


 いや、そんなことはない。


 間違っているのは世界の方だ。


「ほら、そんなに落ち込んでないで早く行くわよ」

「全く、世話の焼けるお兄ちゃんです」


 右手を伊織に握られ、左手を怜奈に握られながら引っ張られて歩く。

 伊織も怜奈も女の子らしいプニプニとして柔らかい手だが、あまり嬉しさを感じなかった。


 方や彼氏持ち。方や実の妹。


 多分他人から見れば両手に華の状態なんだと思うが、今の翼にはなんの感慨もわかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます