まさか、それが根拠じゃあるまいな



「あの、私たちの親って……」

と未悠は駿におそるおそる訊いてみた。


「言ったろう。

 さっぱりわからないんだ。


 俺たちは、二人で手をつないで立っていた」


 そこに、と言いながら、駿は後ろの山を振り仰ぐ。


「遊具がある場所があるんだが。

 その先に、春になると一面の芝桜が咲く場所が昔からあるそうなんだ。


 俺たちは、その花の中に立っていたらしい」


 花の中……と口の中で呟いた未悠は、

「雪の中じゃなかったんですね」

と思わず、言ってしまい、何故、雪の中だ? と訊き返される。


 いやいや、勝手なイメージです……と思っていると、

「行ってみたいか?」

と駿に問われた。


「はい、ぜひ」

と未悠は答える。


 この人の手を握って立っていたときのことを思い出したら、この人を兄だと思えるかもしれないと思ったのだ。


「じゃあ、下の定食屋でなにか食ってからいこう」

と言われ、思わず、えーっ、此処まで来て、定食屋ーっ? という顔をしてしまう。


 さっさと下りようとしていた駿は振り返り、

「小洒落たものは普段、食べ飽きてるから。

 俺は煮魚とか焼き魚とか、素朴で身体によさそうなものが食べたいんだ」

と湾に並ぶ漁船を見ながら言ってくる。


 あ、貴方は食べ飽きてるかもしれませんが、私はこちらの世界に帰ってきてからは、全然食べ飽きていないんですが……。


 毎日、素朴で身体にいいものばかり食べています、と思っていると、駿は、

「いや、あるんじゃないか?

 海鮮丼とかも」

と希望的観測を述べてくる。


「うう……

 了解です」

と言って、駿について山を下った。


 一面の芝桜の花畑、か、と今はただ、緑色でしかない山を振り返りながら。






 なんだかんだ文句は言ったが、漁港近くの定食屋のメバルの煮付けは美味しかった。


 今は観光地になっているから、近くまで車で上がれるという駿の車に乗り、山道を走る。


 その間、園長に話を聞いてから、今まで密かに調べていたという自分たちの過去について語ってくれた。


「俺に妹が居たと聞いたとき、お前のような予感がして調べたけど。


 最初は、まあ、ただの勘だしな、と思っていた。


 だが、当時、あそこに居た子どもたちの写真を見たとき、俺の妹は、お前だな、と直感したよ」


「何故ですか?」


 血のつながりってすごいなと思いながら、訊いてみたのだが、駿は、

「あそこに居た子どもたちの中で、お前が一番可愛かったからだ」

と言い出した。


 えーと……。


「俺の妹だ。

 美形に決まっている。


 一番可愛いいのが俺の妹だ」


 待て待て待て。


 まさか、それだけが妹説の根拠ではあるまいな、と思っていると、

「いや、それは当たりをつけただけだ」

と言ってくる。


「当時の事務員とかいう、ちょっとボケたジイさんを見つけて、話を聞いたんだ」


 そのボケたジイさんは、なに訊いても、はい、そうですよ、とか言う人なんじゃないだろうな、と思ったが、話はやけに具体的だった。


「園長が身内の墓参りに行ったとき、近くの芝桜を見に行こうという話になった。


 当時はまだ、知っている人だけが知っている、みたいな場所で、あまり人気ひとけもなかったらしい。


 その山の中の芝桜のところに行ってみたら、俺が青い布を、お前が赤い服を着て手をつないで立っていたそうなんだ」


 人気のない山の中に立つ、男女の子ども。


「……なにか、ホラーっぽいですね」


 それか、トイレのマーク、と呟く。


 男性は青、女性は赤。


 しかし、今のフレーズはちょっと気になるな……と思っていた。



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