第9-3話

「ど、どうした?」


 片瀬の声が遠く聞こえる。


 固まったように身体が動かない。


 それはうつむいて座っているひなたを見下ろしていた。


 過去の記憶が現在を見ている?


 気温が急激に下がったような気がする。


 白い煙のようなもやが晴天の空に浮かぶ雲のように重なって、幻想と現実を結ぶ橋のように濃くなっていく。


「陰は陽に触れることはできない」


 言葉に力を持たせ、机の上に浮かぶ少女へと意識を向ける。


 絵に宿った少女の顔が、ゆっくりとこちらを向いた。


 宇治土ののどが上下にわずかに動く。


 ぼやけていたぞうが、今ははっきりと視えた。


いたいのか?」


 少女は顔を少し上に向けると、右腕を持ち上げ、船のある方を指差した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る