第5-1話

 みなとみらい二十一地区は、多くの都市機能を集めた国際性豊かな横浜新都心である。


 その地区の顔として、高さ296メートルの巨大なタワービルがそびえている。


 あきら、みつる、一姫の三人は、地下駐車場の片隅かたすみでエレベータの到着を待っていた。


「秘密にするならもう少し考えた方が良くないか?」


「そうね。時間は大丈夫?」


 会話をさえぎるように到着を告げる高い音が鳴り、コンクリートの壁に跳ね返った。


 目の前の扉が開き、内部の明かりが漏れる。降りてくる人はいないようだ。


 後方で待っている人のために三人は道を開けた。


「乗らないのですか?」


 入り口に立ったスーツ姿の男性が、開くボタンを押しながら聞いた。


「どうぞ。先に行って下さい」


 一姫は微笑ほほえみ小さくお辞儀した。


 扉が閉まり、かごがシャフトを上昇していく音が遠ざかる。


 これまでに同じことを三回繰り返していた。


 みつるが手に持っている筒状の紙を、一姫が気にしている。


 聞けば良いのに、なにを遠慮えんりょしているのか。


 その半分でも良いから少しぐらい俺にも遠慮して欲しいところだ。


 苦笑いを咳払せきばらいで誤魔化ごまかすと、「渋谷の話の続きをしよう」と、あきらは切り出した。


「そうですね……。まずは莫耶の受けた被害について考えてみましょうか?」


 ずっと黙って考え込んでいたみつるが、提案を受けて口を開いた。


「莫耶といってもうちの研究所限定だけど、人的被害が大きいよな」


「水曜日でしたから」


「え? どういうこと?」


 一姫が口をはさんだ。


「その日の朝、莫耶会長の訓示放送が予定されていました」


「事故の影響で延期になったけどな」


「普段なら担当している場所へ直行する調査員や、フレックスを利用する人が多い統括管理室員も、その日は放送開始時刻までに全員出社することになっていました」


 みつるは軽く握った右拳を口元に当てながら答えた。


「タイミング悪いね」


 一姫はうつむいて、そうつぶやいた。笑顔は消えている。


「所長も事故に巻き込まれたし。対策室だけだよなぁ、全員無事だったの」


 不幸中の幸いだと口にしかけて止めた。被害にっている人がいるのに不謹慎ふきんしんだな。


「その影響で新宿の調査も遅れていますし、黒川さんが陣頭じんとうで指揮していなければ、もっと状況は悪くなっていたでしょう」

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