第4-4話

「ユビキタスが当たり前の世の中になりましから。莫耶印の部品を使用した製品は、グループ末端の企業まで含めれば、それこそどこにでもありますし」


「いや訊きたいのは、そういうことじゃなくて。莫耶は自社製品にAIを組み込んでいるということか?」


「公開されている仕様以外に、ブラックボックスが存在するのは、それ程珍しいことではないですよ」


「しかし、仕掛ける意味というか狙いが分からん。下手すりゃなんだ、その……、ウィルスとか思われる危険があるじゃないか」


「トロイやスパイウェアですか? そういえば以前、コピー防止用のルートキットやキルスイッチが問題になったことがありましたね」


「だろ。だったらなんで莫耶はそんなことしてるんだ?」


「あきら。AIの存在の有無も含めて、あくまでも仮定の話ですよ」


 みつるは肩を軽くすくめた。


 エレベータが減速し、軽快けいかいな音が鳴る。


 扉の上に並んだ階数表示のうち、B6のランプが点灯している。


「仮に組み込んでいるとしたら、リスクより得られる……、なんでしょう?」


 扉が開き、通路に一歩踏み出したところでみつるはつぶやいた。


 わずかに空気が動いたような気がした。


 みつるの隣に立ったあきらも、生化学実験センターへと続く通路を見ている。


 歩いている人は誰もいない。


 乗ってきたエレベータの扉が閉まり、周囲の明るさが減る。


 特に変わった様子は見えない。


 あきらと顔を見合わせて、再び歩き始めようとしたとき、重くにぶい揺れが二人を襲った。


「地震か?」


「それにしては揺れ方が変です」


 地鳴りのような音が断続的に聞こえてくる。


「なんだあれ」


 あきらが大声で叫んだ。


 ほぼ同時に爆発したような音が足元のさらに深い所から響いた。


 立っていられない程の激しい振動に、みつるは片膝かたひざを着いた。


 あきらは仁王立におうだちしたまま微動びどうだにしていない。真っ直ぐに延びた通路の奥、実験センターのある方向をにらんでいる。


 通路の明かりは消え、薄暗い非常灯が少し離れた場所に点いている。


 状況を確認しようとみつるは目をらしたが、暗くて良く分からない。


 地下深くにひそむ龍がうごめいているような不気味な地鳴りが続き、いったん収まりかけた振動が再び大きくなってくる。

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