第4-3話

「そうは言っていません。技術的に可能だという事実を言っているだけです」


「そ、そうか、そうだな……」


 自分を落ち着かせようとしているのか、あきらは何度もうなずいている。


「いや、だけどみつるはそうは思っていないのだろう?」


 みつるの顔を下からのぞき込むようにしながら、そうたずねたあきらに、みつるは微笑ほほえんでみせた。


「時計が遅れていました」


「ああ、渋谷駅でそんなことを言ってたな」


「特定の条件下における、自己判断によるDoD標準フォーマットの試験を何度もしていたようなのですが、時間の遅延が発生するのが、そのAIの特徴らしいですよ」


「自己……、なに?」


「簡単に言うと、国防レベルのデータ消去実験をしたら、時計が遅れたということですね」


「なんだそれ、バグか? 凄いことをやっているようで、目覚まし時計にも負けてるじゃないか」


「イレギュラーなことだったのではと思いますが、出された結論はプログラム上の仕様ということらしいです」


「仕様ね。ということはやっぱりバグか」


 あきらは笑いながら頷いている。


「そうかもしれませんが……」


 みつるはそこでいったん言葉を切った。上手く言葉に換言かんげんできない。


「存在したことを示したかったのかも」


「ふーん……、誰が?」


「知って欲しい誰かが」


「誰に対して?」


「知って欲しい誰かに」


 そこで二人は同時に苦笑した。意味のない会話を楽しむには、置かれている状況が悪すぎる。


「もし仮に……、仮にだがその莫耶のAIが使われたのだとして、目的はなんだ」


 あきらは急に真顔に戻った。


「事故の可能性は依然いぜん高いとは思います」


「えっ? だけど今……」


 エレベータの到着した音が響いた。扉が開き、周囲が明るくなる。


 二人は黙って中に入ると、みつるは地下六階のボタンを押した。


 ワンテンポ遅れて扉が閉まり、下方向へと動き出す。


「組み込まれていたAIが暴走したのかもしれません。フェイル・セーフなシステムが逆にあだとなって、互いに干渉かんしょうし合った結果誤作動する、ということも考えられなくはないでしょう」


 みつるは中断していた話しを再開した。


「意図的ではなかったということか」


 そこで気が付いたのか、あきらがさらに疑問を口にした。


「うん? 組み込まれていたってなんだ?」

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