第4-1話

 みつるとあきらの二人は、KR地下北口の改札を抜け、生化学実験センターを目指して東陽町線大手町駅へとつながる連絡通路を歩いていた。


 通路の右側の壁には、ところどころに電子ロックのかかった扉が見える。


 みつるはこの通路を利用するたびに、扉がどこに通じているのか気になった。


 もちろん調べれば簡単に分かる。しかし、こういったことは知らないから面白いのだろう。


「もう一つ。渋谷駅の事故の情報もいくつか入っています」


 黙ったまま思慮しりょ深げに歩いているあきらに、みつるはそう切り出した。


「うん?」


 あきらは気の抜けたような声で返事した。


「乗客の証言が多数報告されています」


「ううん? だけど極限な状況にいたのだろうから、あんまり信憑性しんぴょうせいはなさそうだなぁ」


「確かに中には少々大げさな証言をされている人もいますね。思い込みや勘違いということもあるでしょう。実際、制動についての証言だけでも、衝突前に急ブレーキがかかったという人もいれば、そのままのスピードで衝突したという人もいますし」


「ああ、現場検証ではブレーキをかけた痕跡こんせきはなかったと言っていたな」


「別の方向からの検証で、すでに分かっていることについては良いのですが、新たな情報については見極みきわめが難しいですね。でもまぁ……、真偽の確認は後でも良いでしょう」


 そう答えたみつるを、意外そうにあきらが見ていた。みつるは笑顔を返すと、話を続けた。


「目撃者の情報の中に、衝突の直前にクマが飛んでいるのを見た。というのがありました」


「ク、クマがなんだって? 跳ぶ?」


 あきらは目を大きく見開いている。


「警察は重要な情報とは思っていないようですが」


「いや、まぁ、それはそうだろ」


「衝突直前の井上運転士の様子については、残念ですが情報は得られなかったみたいです」


「先頭車両の状況を考えたら、無理だろうな」


 あきらの言葉から現場の写真を思い出し、みつるは一瞬目をつむった。


「それよりもクマ? いやそうじゃない。なんというか……、安全装置が全て作動しなかったことについても、もうみつるには分かっているんじゃないか?」


 あきらは立ち止まり、真剣な表情でこちらを見ている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る