第6-3話

 iDCのセキュリティは、新宿のセキュリティセンターには依存せずに独立していたはずだ。


 それなのに協力を求めたということは……。


「相互接続の試験ですか?」


 みつるはそう推測して尋ねた。


「IXのこと? 違うよー。呼ばれたのは僕だけだし。呼んだのは開発部の人達だよ」


「水智さん一人だけ?」


 CSIRTを通しての協力要請は名目で、目的は彼ということか。


「対決したんだよ。僕が守る側だったけどね」


「それはまた……、変ですね」


 iDCが攻めで、ハッカーの彼が守り?


「えへへ。みつるもそう思う? でも僕、完敗しちゃった」


「えっ?」


 これには、みつるも驚きを隠せなかった。


「向こうが用意したハードで。というハンディはあったけどね」


 みつるが驚いたのが嬉しかったのか、水智は楽しそうに言葉を続けた。


「みつるはさ、プログラムに心は生まれると思う?」


、ですか?」


 水智が負けたということに気を取られていたので、唐突に話題が変わったことに思考が追いつかなかった。


 切り替える時間を得るために、無駄に言葉を繰り返す。


「それはつまり、データマイニングで、ストロングAIは実現可能か? ということでしょうか」


「どんな方法でもいいよ」


 水智は、期待を込めたような目でみつるを見ている。


「そうですね……。記号論的アーキテクチャでは不可能という印象がありましたが、ハードの進歩でまた揺らいでいるようにも感じますね」


 そこでいったん言葉を区切り、みつるはコーヒーを一口飲んだ。


「うんうん。それで?」


 待ち切れないのか、椅子の足掛けに足を乗せ、身を乗り出すようにして水智が先をうながした。


「超大規模データベース。問いかけられた言葉に含まれるキーワードと、回答を超高精度に関連付けるプロトコル。そして超高速なシークとデータ処理。つまり人の脳と似た仕組みを作ることは可能でしょう」


「話しかければ、すぐに的確な返事が返ってくるシステムってことだね」


 嬉しそうに水智が言う。


「問題なのは、そこに心は存在するのか? ということですね」


「みつるはどう思うの?」


「あるのかもしれないし、ないのかもしれません」


「えー、なにそれえ」


 水智は口をとがらせ、姿勢を戻すと椅子に座り直した。

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