第2-1話

 みつるとあきらは社で礼拝れいはいをすませると、小掾に礼を述べて耳神神社を後にした。


 二人は黙ったまま山道を下って行く。


 やがて林が途切れ、目の前が急に開けた。


 あきらは、みつると小掾の間で交わされた会話を頭の中で繰り返し、整理していた。


「みつる。渋谷のあれは事故じゃないと言い切っていたが、その、小掾さんへの気遣いからか?」


「いえ、そういう理由ではないのですが……、それに事故ではないとは言っていませんよ」


「え? だけど運転士の過失ではないと言っていなかったか?」


「人は完全ではないから、バックアップする装置があるのでしょう。その装置が三つとも作動しなかったのなら、事故の原因は装置側にあるのではないでしょうか」


「えっと……、そうか?」


 分かるような、分からないような。どうもこう釈然しゃくぜんとしない。


 冷たいようだが井上運転士がミスをしなければ、バックアップ装置の不具合も問題にならなかったわけで、やはり原因は運転士の過失となるのではないだろうか?


 なんとなくみつるはなにか隠しているような気がする。


「全ての安全装置が作動しないなんてありえない。と言っていたな……」


「ええ。フェイル・セーフなシステムで、互いに干渉かんしょうしあって逆に誤作動するということも考えられなくはないですが。ブレーキをかけなかった井上運転士。機能しなかった三つの安全装置。事故が起きたタイミング」


 タイミング?


 あきらには今一つ、みつるが言っていることの意味が分からなかった。


 新宿のことを言っているのだろうか?


 いや、それよりもブレーキがなんだって?


 なにが引っかかったのか、あきらはもう一度、急いで頭の中を整理する。


「これらを考えると、もう少し詳しく調査する必要はあると思います」


「ちょ、ちょっと待てくれ」


 あきらは手の平を向けて、みつるが話を進めるのをさえぎった。


「その前に確認したいんだが、ブレーキをのではなくて、のではないのか?」


「事故調査の資料によると、ブレーキは運転の位置、つまり常用、非常、どちらもブレーキをかけた痕跡こんせきは見当たらなかったようです」


「ということは、なにかに気を取られていて衝突まで気が付かなかったのか、あるいはなんらかの原因で気を失ったのか」


「井上運転士は持病じびょうもなく身体は健康だったそうですが……、ああ、来たときは気が付きませんでしたがこの公園ですね」

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