第1-2話

「ところでみつる。今日は運転士の遺族に会いに行くのだろ?」


 今更いまさらとは思ったが、一応確認することにした。


「そうでしたね。まだ説明していませんでした」


 みつるはそう言った後、しばらく黙って歩いた。


 あきらも黙って横を歩く。どうやら確信があって来たわけではなさそうだ。


「昨日、亡くなられた井上運転士のデータを調べていたのですが……」


「ああ、調べてたな」


「井上秀樹夫人、はるなさんの小掾という旧姓が気になっていたのですが、あきらの一言で、昔読んだ研究所の資料を思い出しました」


「俺なにか言ったっけ?」


 あきらは頭をいた。全く身に覚えがない。


「研究所に資料があったということは、彼女は特別なのか?」


「はるなさんのご実家は、耳神神社の神主を代々なされているようです。二十年程前のことらしいのですが、莫耶の資料には耳の聞こえない少女について書かれていました。彼女は耳が聞こえない代わりに、他の感覚が普通の人よりするどかったようです。中には予知としか思えないケースも数多く記録が残っていました」


「なるほどね。その少女が、はるなさんってわけか」


「はるなさんが七才になられた頃、耳が聞こえるようになったそうです。それから次第にその鋭敏えいびんな感覚は弱まり、ついには消えてしまったそうですが」


「えっ? だけどそんな昔に消えたって言うなら、今日会いに来たのは何故なんだ?」


「はるなさんではなく紀子さんに会いに来たのです」


「紀子さんって、確か三才って言っていなかったか?」


 驚いたあきらは、思わず訊き返していた。


「四月から幼稚園に通われるみたいですよ」


 平然とみつるは答えた。


 二人はその後、しばらく黙って歩いた。道は次第に細くけわしくなり、辺りには人影がなくなっていた。道の両側には、背の高い樹が延々と続いている。


「話しは戻るが、記録が残っているということは、当時のはるなさんのその感覚は、相当なものだったんじゃないか?」


 辺りの空気がんでくるのを感じながら、あきらは口を開いた。


「当時の彼女の的中率は30%です」


「30? 思ったよりも低いな……」


「彼女が感じることができたのは、その人の生死に関わることが多かったようです。死を先見すると、その死を避ける方法も伝えたので、彼女の言葉を信じた人達は死をまぬがれることができたわけですね」

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