第7-3話

「しっかりしろ。目を覚ませよ」


 少年は少女を抱え上げると、ほほを叩いた。


 男は逃げ出した少年達へと視線を向けた。


 陽光ようこうの下であったなら、黒いもやが少年達に高速で迫るのが見えたかもしれない。


 少女を守るように抱えている金髪の少年の両脇を、冷たい風のような気配が通り過ぎた。


 逃げていた少年達の悲鳴が上がる。


 木の葉のように舞っている二つの影が見えた。


 金髪の少年は、その様子を視界のすみとらえながら必死に少女をり起こした。


「あ……?」


 まだ目の焦点しょうてんは合っていないが、少女は意識を取り戻したようだった。


 金髪の少年は、少女を抱きかかえながら遺跡の横にある階段の方をにらむ。


「こっ、ここで見たことは、誰にも言わない。もうやめてくれ」


 少女が気付いたことに安堵あんどすると、こちらを見ている男に向かって叫んだ。


 男は答えず、自分と少年との中間に位置する崩れた煉瓦れんがの壁に視線を移したように見えた。


「俺がやつの気を引くから、お前は逃げろ」


 少年は少女を自分の背後に隠すように身体を動かし、男に聞こえないように小声で伝えた。


「いやだっ。一緒に逃げよう」


 少女は泣きながら、少年の服を引っ張った。


「行くんだ! 行け!」


 少年は叫ぶようにそう言うと、少女を突き飛ばした。背後の少女をかばうように両手を広げ、男に向かって走りだす。


 その刹那せつな。赤くまばゆい光が三人を照らし出した。


 黒いコートの男の姿がらいで見える。


 驚いた様子で男は階段を振り仰ぐと、とがめるような激しい言葉を吐いた。


 少年は立ち止まり、その場に呆然ぼうぜんたたずんでいる少女の方へとじりじりと後退する。


 男が視線を向けている辺りへ目をらしても、少年の位置からはなにも見えなかった。


 男は怒っているようなきびしい口調だった。


 なにを言っているのか理解できないのは、気が動転しているからだと思っていた。


 しかし良く聞いてみると、男は日本語ではなく、英語で話していることに気が付いた。

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