第7-1話

 外国人墓地の南西に隣接している本町もとまち公園は、春になれば桜が美しく、豊富な水が訪れる人々の心をなごませてくれる。


 景色が美しい庭園風の公園を高台に向かって歩くと、それまでとは雰囲気が異なる、山手館の遺跡が現れる。


 関東大震災で倒壊した、廃墟にも似たその場所に、焚き火を囲う五人の若者の姿があった。


 騒がしい声が辺りに響き、若者達の足元には、タバコの吸殻や空になったビールの缶が転がっている。


「知ってるか? この辺りって相当やばいらしいぜ」


 ちた煉瓦れんがの壁を背に座っている少年の一人が、真面目な顔で話し始めた。吐き出される息が白く見える。


「やばいってなにが?」


 すぐ隣にいる十代半ばくらいの少女が、両腕を交差させて自分の肩をさすりながら尋ねた。


「出るんだってよ。しかも大勢」


 わざとらしく声のトーンを落として、怖さを演出している。


「やめてよ」


 少女は耳をふさいで、身を震わせた。


「出るってなにがだよ。幽霊とでもいうのか?」


 対面に座っていた少年が、そう言って空き缶を投げ捨てた。


「幽霊以外に、なにがあるってんだよ」


 少年は少しむきになって答えた。


「嘘だろ」


「ありえねえよ」


 周りにいる少年達が、口々に文句を言う。


「そういえばこの前、山手高の奴等やつらが山下公園で見たって言ってたな」


 少し離れた場所の、崩れた煉瓦の上に座っていた金髪の少年が話しに加わった。


 ここからは焚き火に照らされた四人の姿がはっきりと見える。逆に向こうからは暗くて良く見えないこの場所を、少年は気に入っていた。


「だろ。最近特に目撃例が多いらしくて、その幽霊、外国の人形のような格好かっこうをしてんだってよ」


 肯定されたことに気を良くしたのか、得意気に話しを再開した。


「もうやめてよ」


 少女が下を向いたまま、泣きそうな声で訴えた。


「そんでよ……」


 構わず続けようとしたその時、遺跡に面した階段の上から枝の折れるような音が聞こえた。


 少女が驚き悲鳴を上げた。


「な、なんだよ」


 話しをしていた少年も声を上げる。


「で、出たのか?」


「じょ、冗談は止めろよ」


 周りにいた少年達も、音のした方に注意を向けた。


 溶け出した闇の中から浮かび上がるように、黒いコートを着た背の高い男が現れた。


 音もなく階段を下りて来る。

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