第5-7話

 事故でも事件でもないなら、一体何故いったいなぜ今回のようなことが起こったのだろうか?


 長引きそうだな……。


 溜息ためいきが出そうになったあきらは、息を止めてこらえた。


 これ以上どう調べれば良いのか検討もつかない。


「では、当日の様子を思い出して頂きたいのですが、なにか変ったことはありませんでしたか?」


 みつるの質問に、運転士達はなにかないか思い出そうとするように、首をひねっている。


 しばらくして運転士の一人が組んでいた腕を離すと、顔を上げた。


 なにか言いたそうにしていたが、同僚の様子をうかがうとまた下を向いてしまう。


「どんな些細ささいなことでも構いませんので、気が付いたことがありましたら遠慮えんりょなくおっしゃって下さい」


 みつるがその運転士を見つめながらうながした。


「たいしたことではないのですが……」


 みつるの言葉に勇気付けられたのか、その運転士はそう前置きをして話し始めた。


「井上が、事故を起こした運転士ですが、当日の朝、会社に遅刻して出勤してきました。それまで井上が遅刻したことはなかったので、印象に残っていたのですが……」


 運転士の声は段々小さくなり、最後の方は良く聞き取れなかった。


「そうだったか?」


 別の運転士が疑問を口にする。


「それは間違いないよ。あまりに遅いから、俺が井上の代わりに運転するように言われたんだよ。結局、発車時間ぎりぎりに出勤してきた井上が運転したけどな」


 もう一人の運転士が眉間にしわを寄せて答える。


「自分があのまま代わっていればと思うよ。思い上がりなのは分かっているけど……」


 その場にいる全員がうつむき、重い空気が流れた。


「遅れてきた理由について、言っていませんでしたか?」


 みつるだけがかまう様子もなく、変わらぬ調子で尋ねた。


「確か、子供がぐずったと言ってたな。尋常じんじょうでないぐずり方に、家を出るに出られなかったらしい」


 代わるように頼まれたと言った運転士が答えた。


葬儀そうぎは事故調査が終った後になると思うのですが、何時になるか分からないので、それまで井上の妻子は茨城の実家に戻ると言っていました」


 神妙しんみょうな顔をして吉川が言う。


「ああ、やたら姿勢が良くて、ちょっと普通じゃない雰囲気のじいさんと一緒に挨拶あいさつに来ていたな」


 井上が遅刻したことを思い出せなかった運転士が、少しうれしそうに答えた。


「坊さんかなにかか? その爺さん」


 つぶやいたあきらに、全員の視線が集中した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます