第5-6話

「ATS装置毎に、時計が内蔵されていると思うのですが」


 みつるがキーボードをゆっくりとタイプしながら尋ねた。


「作動しなかったATSの時間が遅れていませんでしたか?」


 みつるの質問に、その場にいる駅関係者全員が顔を見合わせた。


「えっ、ええ、確かに二分弱程遅れがありましたが……。とっ、時計と安全装置が連動しているわけではありませんから、その遅れが事故の原因とは考えられません」


 みつるが知っていたことに驚いたのか、何度もつかえながら技師は答えた。


「なにか分かったのか? みつる?」


「いえ、少し確認をしたかっただけです。説明の続きをお願いします」


「えっ、あっ、はい。次に二つ目として現在メインの安全装置となるのですが、簡易版のATS―Pから切り換えた、ATC、自動列車制御装置と呼ばれる装置です。東海道新幹線でも使用されている高度な安全装置で、前を走る列車との距離に応じて自動的に速度を調整します。これまで一度も重大な事故は起こしていなかったのでが……」


 技師はそこまで説明すると、言い難そうに口をつぐんだ。


「ATCも正常に作動しなかった」


 あきらが技師の言葉の先を読んで続けた。


「はい。最後に三番目の装置ですが、現在実験的に導入しているATACSと呼ばれている安全装置になります。これは列車自体が現在の位置を認識していまして、地上のATACSから送られてくる先行する列車の位置データを考慮こうりょして自動的に速度を制御します」


「まるでロボットみたいですね」


 装置の仕組みの凄さにあきらは驚いた。


「ええ、列車が自分で判断して制御していますので、ロボットとも言えますね」


 まるで自分の子供がめられたとでも言うように、自慢げに技師が答える。


「その三つの安全装置が、同時に作動しなくなる可能性はどの位なのでしょうか?」


 吉川が最初に否定したことを、みつるが改めて尋ねた。


「ありえません」


 技師は迷いなく答える。


「作動しなかったのが二つなら偶然ということもありえますが、三つ同時となると、偶然に作動しなかったとは考えられません」


 語気を強めた吉川が、技師の答えに付け足した。


「事故ではなく、事件であると?」


 あきらが疑問を口にする。


「警察も調べていますが、外部から関与した痕跡こんせきはないようです」


 吉川が答えた。

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