第5-1話

 関東鉄道、KR渋谷駅は昨日発生した追突事故によって機能が完全に麻痺まひしていた。


 駅舎えきしゃへと続く通路は、ほとんど全てロープが張られ、立ち入り禁止となっている。


「莫耶の方ですね。こちらでお待ち下さい」


 周辺警備中の駅係員に莫耶のIDカードを見せたあきらとみつるは、事故の被害をまぬがれた駅舎南側二階応接室へと案内された。


 衝突時の衝撃の大きさを物語るように、部屋の外壁の一部に亀裂きれつが走っている。


 空気はどこかほこりっぽく、すすなのだろうか、げ臭い匂いが漂っている。


「外から見るよりも、かなり被害が大きかったみたいだな」


「そうですね。修復するのに相当な日数と費用が掛かるのではないでしょうか」


 そんな会話をみつると交わしながら、あきらは昼休みに起きたタンクローリー事故のことを思い出していた。


 みつるが見せた表情がどうしても気になる。


「さっきの事故のことなんだが」


 あきらは思い切って訊いてみることにした。みつるは黙って聞いている。


「なにかその……、変な感じがしなかったか?」


「暴走車ですから普通じゃないのは確かですね」


「いや、そうじゃなくて。いや、そうだけど」


 こういう回りくどい訊き方は、どうもしょうに合わない。


「その、視線というか、意志というか。なにかこう言葉にするのは難しいけど。悪意のようなものを感じなかったか?」


「悪意ですか? 特に気が付きませんでしたが」


 みつるの答えは意外に思えた。


 てっきり事故直前のあの不可解な動きは、自分と同様になにかを感じたからだと思っていた。


「じゃあ、あのとき……」


「意志は感じませんでしたが、小さな影のようなものが見えたような気がして、一瞬気をとられてしまいました。あきらがいなければ危うくかれているところでしたね」


 あきらが質問するより先に、みつるが答えた。


 微笑んでいるが、なにか考えているようにも見える。


 その影についてさらに訊こうとしとき、部屋の扉が開いた。

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