第4-2話

「新宿を調査されているのは藤崎室長ですか?」


「ええ、昨日の事故で人員は半減してしまったけど」


 藤崎はそこで一旦下を向くと、右手で髪をでた。声が少し震えている。


「調査室員のほとんど全員が、新宿にかかりきりよ」


「なにか分かりましたか?」


「陥没の中心地と、莫耶の地下施設のあった場所が一致しているのが問題ね」


 東京駅の話から新宿へと話題が移ったことにほっとしたのか、藤崎の表情が少しやわらいだ。


「生存者の調査も行っていると思うのですが」


「病院にも何人か調査員が行っているけど?」


「では、これは個人的なお願いなのですが、精神科病院に入院している患者について、調査して頂けませんか?」


 対策室ではなく、あくまでも個人の依頼であるということを前置きしてから、みつるは調査を頼んだ。


「別に構わないけど、新宿の災害で精神的にショックを受けた人は、結構な人数になると思うわよ?」


「はい。病名と症状も調べて頂ければ嬉しいのですが……」


「OK。調査次第資料を渡すわね」


 理由をどう説明しようかみつるが迷っていると、藤崎は特に気にする様子もなく依頼を引き受けた。


「それじゃ、急ぐから」


 みつるの横をすり抜けるようにして、藤崎は部屋を出て行った。


「よろしくお願いします」


 みつるは藤崎の背中に礼を言うと、安藤彩のいる席へと向かった。


「ありがとう。でも大丈夫。危なくなったらすぐに逃げるから」


 みつるが話しかける前に、彩から話し始めた。


「それに、一人で東京駅の調査に行くと言った藤崎室長を止めたのは私なの。少しでもおかしいと感じたら、すぐに調査を中止することを条件に、無理やり説得して」


「すみません。責めるつもりで来たわけではなかったのですが……」


 みつるは彩に謝ると、蒼色に光る小さな菱形ひしがたの石を二つ手渡した。


「これは?」


 受け取った石を見つめながら、彩はみつるに尋ねた。


「お守りです。修さんにも渡して下さい」


 みつるは微笑みながら答えた。


「ありがとう」


 彩は石を部屋の明かりにかざして、不思議そうに透かし見ている。


 資料の山の向こうには、黙々と書類を書きながら、礼のつもりなのか左手を上げてひらひらと振っている修の姿が見えた。


「気をつけて下さい」


 みつるはきびすを返し、足早に部屋を出た。手を振っている彩に、みつるも軽く手を上げて振り返すと、扉を閉めた。


 静かに息を吐き、あきらの待つロビーへと急いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます