柴ちゃんには柴ちゃんのいいところがあるさ。

カアンッ!!



「オッケー、ナイバッチン!!」




「回れ、回れ!!」




「柴崎!3ついけるぞ!3つ!!」




ランナー1、3塁。フルカウントまでねばねばしていた俺が最後は低めのストレートを弾き返した。それまで決めにきた変化球をなんとかファウルにしたり、きわどいのを見極めたりして、ようやくストレートを呼び込んだ。



ドンピシャのタイミングでピッチャー返し。



投げ終わったピッチャーが体勢を崩しながら差し出したグラブの横をかすめ、飛び付いたショートのグラブの先を抜けて、打球はセンター前に転がっていく。



3塁ランナーは楽々ホームインし、1塁ランナーの柴ちゃんが快速を飛ばして一気に3塁へ向かう。



打った俺も、3塁へ送球される間に2塁を狙う体勢を取ったが、ボールは2塁ベースに返ってきたので慌てて1塁ベースに戻った。



これで秋キャンの実戦練習トータルで20打数10安打の打率5割。



シーズン中を上回るペースでヒットを量産していく俺。



もし、クライマックスシリーズや日本シリーズに出るようなチームに在籍していたら、お祭り男と称され、大活躍していたんじゃないかと言えるくらいの絶好調ぶり。



新しいバット様々であるが、お金にならないヒットということを考えると、ちょっと残念だったりもする。







「続いてプロ野球の速報です。今日は東日本リーグ、クライマックスステージ第4戦が行われました。


東日本リーグでは、ペナントレース1位の東京スカイスターズが、平柳のホームランなどで5ー1で北海道フライヤーズを破り、アドバンテージを含み3勝2敗として日本シリーズ出場を決めました。スカイスターズはこれで2年連続でのシリーズ進出です」



「スカイスターズはやはり、1番平柳、2番佐藤というところが非常に良い結果を出しましたね。シーズン通りの働きで打線に勢いをもたらしました。日本シリーズでも2人の活躍に期待しましょう」



ビクトリーズの秋キャンは、前半の7日間を終わったところ。


みんなでキャンプの前半戦を終えた労をねぎらいながら、おばちゃんが作ってくれた美味い和食中心の晩飯に舌鼓。



壁に掛けられたテレビでは、ポストシーズンを争う熱い戦いが繰り広げられており、スカイスターズの平柳君は試合を決めるホームランを打ったシーンが写し出されていた。




「既に日本シリーズを決めている福岡ハードバンクスと東京スカイスターズの日本一を賭けたシリーズいよいよ始まります!当チャンネルでは、第1戦第2戦の模様をお送り致します。更なる熱戦に目が離せませんね!」








「すげーなあ、今の平柳さんのホームラン。俺もあんなインコースの捌き方してみたいっすよ。こう、本当なら詰まるところを上手く腕を畳むようにしてさー」



と、差し入れでもらったプリンを食べながら柴ちゃんが呟く。



「柴ちゃんもたまにやるじゃん。あのくらい厳しいボールを腰の回転でグイッとライト線に引っ張るやつ」



俺がそう返すと、彼は少し不満げに首を横に振った。



「いやあ、よくてラインギリギリのツーベースですからね。平柳さんは今みたいにホームランに出来るんで。それがうらやましいっすよ」



「でも、平柳君だって、入団して2年目3年目くらいまではあのコースはくるくる三振していたよ。その分ヒットに出来る柴ちゃんはなかなかのもんだよ」



柴ちゃんが言ったのは、右ピッチャーが投げた左バッターの膝元に入ってくるカットボール系統の球。



見逃したら、もしかしたら審判によってはボールと言われるくらいの厳しいボール。右ピッチャーとの対戦で、左バッターの泣き所と言われる場所だ。



クライマックスシリーズ。勝てば日本シリーズ出場が決まる試合。試合中盤のリードが欲しい場面で放った平柳君のその試合2本目のホームランはそんなボールを掬い上げてライトポール際に飛び込む1発だった。









柴ちゃんは自分でうらやましいといったが、横でそれを聞いていた俺はちょっと違うかなと思った。



柴ちゃんも左バッターで、バッターのタイプとしてら平柳君と似ている部分はある。



柴ちゃんは大卒の今年1年目、平柳君は高卒6年目。



どちらかといえば柴ちゃんは、引っ張るのが大好きな前捌きの俊足タイプのバッター。平柳君も柴ちゃんほどではないが十分に足も速いし、柴ちゃんよりもさらに長打力がある。



2人の共通は、ボールを打つポイントを前目にして、とにかく差し込まれないように、振り遅れが少なくなるようにというそんなタイプ。


それプラス、スイングに推進力を生ませて少しでも遠くにボールを飛ばそうとする考え方なのだろうが、ポイントを前にしてボールを見る時間を削る分、縦の変化に弱い。空振りがどうしても増える。



横の変化には、バットの巻き込みで強引に打ち返すことが多少可能なのだが、ワンバウンドするような、バットから逃げていくような、振ってはいけないボールには、もう打ちにいったらバットが止まらない。



今シーズンの打率が3割5分1厘の平柳君だが、三振数はリーグワースト3位。ちなみにワースト2位は柴ちゃん。



捌き切れればパンチ力は生まれやすいがその分、くるっくるバットが回ってしまうので、脆さもあるバッティングの仕方と言える。

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