ポニテちゃんの施しを受ける新井さん2

「いただきます」


「はい、どうぞ。おかわりもたくさんあるから、どんどん食べてね」


「おかわり!」


「はやい」


今日のメニューは、鯖の煮付けと肉豆腐のあんかけ。大豆とごぼうのサラダ、ほうれん草のごま和えにあさりの味噌汁。そして、筍ご飯。


筍ご飯が美味すぎて一瞬でなくなってしまった。



「これでよしと。……新井さん、ちょっとピリピリし始めますよ!」



「おう、どんときやがれ!」



ポニテちゃんは、風呂上がりの俺がテーブルに着くと、その足元でゆさゆさもぞもぞ。


前にもみた、ファミコンみたいな機械を取り出してコンセントに繋ぐ。


次に、そのファミコンみたいな機械の電源を入れると、コードに繋がれたパッドを3枚、俺の右足首を覆うようにして貼り付ける。


そして、ツマミをぐるっと回した。


すると、パッドが当たっているところからピリピリした感触が断続的にやってくる。


「はあー、痛気持ちいいー」


ピリピリとするとちょっと痛いがそれが一瞬収まると、電気で緊張した筋肉が緩む感覚になり、それがなんだか心地いい。



「それじゃあ、30分そのままにしておきましょう。パッドが外れちゃったら言って下さいね」


「分かったー」


「さやちゃんもご飯食べていって」


テーブルの下からむっくりと出てきたポニテちゃんに、みのりんが声を掛ける。


「いつもありがとうございます。いただきます!」


ポニテちゃんとみのりんもテーブルに着き、3人で楽しくお喋りをしながら、みのりんの美味しい手料理を心ゆくまでお腹いっぱい堪能した。









「はい、これでオッケーです。あとはなるべく右足に負担が掛からないようにして過ごして下さい。夜も、ちゃんとサポーターを巻いて、右半身が下にならないように寝て下さいね」


風呂上がりに、どこから絞り出したやつなのか、謎の白濁クリームを塗りたくられ、ご飯を食べながら電気ピリピリして、仕上げに怪しい湿布を貼られた。


これがまた普通の白いやつとは違うやつで。いかにも薬草といった感じの、苦いような渋いような独特の匂いがして、見た目も色んな種類のどす黒い色をした葉っぱがぎゅーっと1枚の薬紙に押し固められたようなグロテスクさ。


しかしそれがなんだかすごく患部に効いている気がしてくる。


みのりん部屋の熱いお風呂に興奮しながらゆっくり浸かって火照った右足に薬草湿布がじんわりと冷えて気持ちいい。


「ふあー………。ほんじゃあ、部屋に戻って寝ますわ。おやすみ、2人とも」


「おやすみなさい!」


「新井くん、1人で部屋に戻れる? ドア開けて上げるね」


みのりんは心配そうな顔をして、慣れない松葉づえを使って歩く俺の前を行く。


「段差があるから気をつけて」


「うい」


最後は俺の部屋の玄関まで開けてもらっちゃって。


そのまま部屋に連れ込みたいですわね。








翌日。


たっぷり12時間睡眠を取った俺の体調は万全で、ご機嫌、ご機嫌。


カーテンの隙間から眩しい太陽の光が差し込んできている。


ベッドから起き上がって、薬草湿布を巻いた右足の具合を恐る恐る確認してみると………。


…………。



…………むむむ?


……………むむむむむむ!



おー! 全然痛くない! 絶好調!


昨日はちょっと足首を回しただけでズキンズキンと痛かったのに、今は全然痛くない! 絶好調!


その場でももあげ100回やってみても、枕を放り投げてバイシクルシュートをしても、全然痛くない!


これはいける!



さすがはポニテちゃん!マジでサイコー! 本当に愛してる!


俺ははやる気持ちを落ち着かせながらも、急いで支度をして、ビクトリーズスタジアムに向かった。



試合に出れますということを速くみんなに伝えたい。早く報告したくて仕方がないのだ。


たいした荷物もないから、小さなリュックを背負って、ウォーミングアップがてらにジャージ姿でランニング。


途中のコンビニでフライドチキンとアイスクリームという、栄養バランス抜群の朝食を済ませて、ゆっくり1時間ほどかけてスタジアムに到着した。


全く右足に違和感ない。むしろ痛くする前よりも調子は良さげかもしれない。



さっそく監督に今日の試合も出れますと報告してこよう。







「なあに!? 足は痛くないんで、試合に出れます? バカ! 今日のお前はベンチスタートだ!スタメンでは使わん!」


監督室に、おはよっすー!みたいなノリで入っていったら、萩山監督は飲んでいたコーヒーカップを机に叩き付けるようにしながら俺を叱った。


「いや、マジで痛くないんす! 昨日の朝よりも調子がいいくらい。ほら、見て下さいよ!」


俺は体が絶好調であることをアピールするために、段々壁が迫ってくるパントマイムや三点倒立などを披露したのだが、全然ウケなかった。


不貞腐れた俺はソファーに座り込んで、目の前のテーブルにあった、親会社の看板商品である、ビクトリアガレットに黙って手を伸ばす。


監督も全部食われてしまうと警戒したのか、ソファーに座り直し、一緒にボリボリ。


「お前な、試合に出たいのは分かるが無理はいかん。だいたい今いくつだ、お前は」


「28すけど」


「だろ? その歳でルーキーのお前には酷かもしれんが、そのくらいの年齢になると、自分ではいけると思っても、体がついてこなかったりするもんだ。30前のちょっとしたケガ程舐めちゃいかん。


今日の練習次第では、途中のここぞというところでなら代打で使うかもしれんから、それなりの準備はしておけ。くれぐれも全力で走ったりはするなよ。今日は許す」


萩山監督はそう言いくるめるようにして、ビクトリアガレットをもう2、3個押し付けると、俺を監督室から追い出した。

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