チーズフォンデュに浮かれる新井さん
その好機に3番阿久津さん。
最近いいところがなかったベテランが、この打席は必死にボールに食らい付く。
外に逃げるスライダー。それをバットの先でなんとか掴まえた。
結局、バッティングとしては引っ掛けている。形としてはよくないバッティングだが、阿久津さんは気持ちで打球を三遊間の真ん中に転がす。
打球は飛び付いたショートのグラブをすり抜けるようにして、レフト前へ。
3塁から柴ちゃんがホームインして、ビクトリーズが同点に追いついた。
盛り上がるライトスタンド。敵地に僅かながら集まったビクトリーズファンのチャンステーマに乗って、4番の赤ちゃんが痛烈な当たり。
打球は1塁手を強襲する内野安打になり、1アウト満塁。
打席にはイタリアンリーガー、シェパード。
大きな体を少し前傾姿勢にして、バットをゆらゆらさせてボールを待つ。
1アウト満塁の好機。同点に追い付いた今、助っ人マンの豪快な1打で一気に逆転してリードを奪いたい。
祈るようにして見守る、チームメイトとファン。
なんとかここで1本。その願いがシェパードのバット乗っかったのか、低めのボールをすくい上げると、打球は左中間へ大きな当たり。
シェパードが高く、打ち返したバットを放り投げた。
広い広い、札幌のドームの左中間。
緑色の人工芝と、高いフェンスがそびえ立つその空間を越えんばかりの勢いでシェパードの打球が伸びていく。
いったか、これはいったか!?
満塁ホームランか!!
一瞬そう思ったが、この打球をセンター東川がフェンス手前でなんとジャンピングキャッチ!
高い運動神経を生かしたスーパープレーだ。
キャッチした後バランスを崩し、少し強くフェンスに体をぶつけたが、ボールを離さずにすかさず送球。
犠牲フライで1点勝ち越したのは事実だが、全然そんなムードではない。
俺はその間にタッチアップしてホームインし、ビクトリーズが逆転に成功したが、札幌のドームは今の東川のスーパープレーに大拍手だ。
抜けていれば走者一層、スリーベースヒットになっていたかもしれない打球だった。
打ったシェパードも手応えは存分にあっただろう。
最後は多少失速した分、フェンスオーバーとはならなかったが、それでもビクトリーズスタジアムなら余裕でホームランになっているようないいバッティングだった。
しかしまだ、ランナーが2人残っているチャンスだったが、期待の桃ちゃんはセカンドゴロで3アウトチェンジ。
打線が繋がりかけたこのチャンスに、1点勝ち越すだけに終わってしまった。
ここが今日の試合の勝敗を分ける分岐点となった。
「代打川田、これは打ち上げてしまいました、内野フライです。……セカンドが落下点ボールを収めまして試合終了!!5ー2! 北海道フライヤーズが、3連戦初戦を勝利しました。
見事な逆転勝ち!今日敗れた東京スカイスターズに再びゲーム差なしの2位に並ぶことになりました!」
最後のバッターが凡退し、試合終了。一時は逆転したが、すぐさま追い付かれ、終盤の集中打で勝ち越しを許してジ・エンド。
これでうちは4連敗となった。
がっかりしたチームメイト達と同じ顔をして、俺もベンチから引き上げる。
すぐに荷物をまとめると、ユニフォーム姿のままバスに乗り込み、ホテルへ直行。
するともう俺はケロッとしてワクワクが止まらない。
いつも泊まってる札幌のホテルは、メシが美味いからなあ。
種類も豊富だし、いついっても和洋中なんでも揃っている。
クレープや冷凍ライチもあるし。
「皆さん、お疲れ様でございまーす。いつも通りロビーで少し待っていた………」
バスがホテルのロータリーに到着し、宮森ちゃんの言葉を遮るようにして、バスを飛び出すように降りる俺。
「もう、新井さん!せめて着替えてからレストランに行って下さいよ、恥ずかしいですから!」
「知らん、知らん!」
ホテルのレストランの前で、宮森ちゃんにユニフォームからチームジャージに着替えさせられ、子供のようにひっくり返ってビービー泣いていた俺だったが、今日はなんとバイキングレストランでチーズフォンデュフェス開催と聞いてケロッと大歓喜!
カロリーやら栄養素やら的に、明らかにスポーツ選手向けではないチーズフォンデュだが、意識低い系の野球選手である俺は子供のようにすぐさま飛び付いた。
フォンデュセッティングされたテーブルに座って、グリルチキンやハンバーグ。蒸し野菜やお魚のフライなんかも欲張って、とろーりアツアツのチーズソースにからめていく。
美味い。
チーズフォンデュ美味すぎる。
ハンバーグはもちろんチーズハンバーグになるし、甘辛いタレのついたチキンにも合うし。野菜にも合うし、フライも美味いし。
ただ冷凍ライチには合わなかったね、唯一。
クッソまずかったです。
他の食べ物には全部合いますね。チーズフォンデュさんは。
ただ、宮森ちゃんに見つかったら殺されるだろうけども。
……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「………新井さん……。なんでそんな高カロリーなものばっかり……そんなにチーズを絡めて美味しそうに……」
背後から殺気が………。
もう手遅れのようだ。
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