昼寝したら調子いい新井さん 2

「ボール!!」


3番の阿久津さん。3ボール1ストライクから、高めに抜けたストレートを見逃してフォアボール。


ピッチャーのコントロールが定まってないと見るやしっかりと打席の中で見に回る。



さすがはベテランの味。野球というものを分かってらっしゃる。


1アウト、1、2塁となって、4番の赤ちゃんが左バッターボックスに入る。真っ黒のバットを豪快に素振りしてバッテリーを威嚇するようにしながら。



気合いは十分みたいだ。


ベンチからのサインはなく、ここは4番バッターにお任せ。


しかし、赤ちゃんは2球目の低い変化球をパカーンと打ち上げてしまう。


打球は1塁ベンチ前へ。


ファーストとキャッチャーがその打球を追いかけ、最後はファーストがスライディングしながらナイスキャッチ。



2アウト。



そして、ツボにはまればの5番シェパードはツボにはまらず空振り三振。


1回ウラビクトリーズは無得点に終わった。



「ナイスバッティング」


1塁ベンチに戻ろうとすると、相手選手が声を掛けてきた。


振り返ると、さっきホームランを打った豊田がやあと、手を挙げていた。



「どーも。さっきのはずいぶんエグいホームランだったね」


俺がそう言うと、豊田はグラブで顔を隠しながら笑った。


「たまたま当たっただけですよ」



「またまた、そんなこと言っちゃって」





「2番、レフト、新井」


試合は少し進んで3回ウラ。2アウトランナーなしで俺に打順が回る。


依然0ー1とリード許している状況。


俺にも間違いが起こればスタンドまで打球が届くパワーが間違ってあればよかったのだが、そんな間違いは間違っても起こらないらしい。


せいぜいホームラン狙いのスイングをして、芯に当たったとしてスタンドまで届くイメージは1つもない。



とりあえず、身の丈にあったバッティングと言いましょうか、自分に出来るバッティングを心がけましょうということで、若干アウトコースにヤマを張りながら、1球2球と慎重にボールを選んでいく。



しかし相手バッテリーはなかなか外よりのボールを投げてくれず、4球目からは俺がねばねばモードになって、インコースよりのボールをなんとかファウルボールにしてしのぐ展開に。


そして、2ボール2ストライクとなった8球目。


アウトコースではないが、真ん中低めに甘めの球。


俺が振ったバットはボールの下を叩き、打球は力なく、ふわふわとライト線へ。



ライトがダーッと前進して、ライン際でスライディングキャッチを試みる。


が、ポロリと打球をこぼした。


そのプレーを見ていた1塁塁審がフェアグラウンドを指差す。



俺は勢いよく1塁を蹴って迷わず2塁へと向かった。






「新井は2塁へ向かった! 2塁へ向かった!! きわどいタイミングだ! タッチは…………セーフ! セーフです! 新井がよく走りました! ツーベースヒットです!!」


「思い切りよく走りましたねえ。まあ、2アウトでしたし、盗塁するのは難しい新井でしたから、ギャンブルのつもりでしたでしょうねえ」


「そうですね! 迷うことなく、全く減速することなく新井は2塁へ走っていきました。ベース際も上手くスライディングしまして、ツーベース。今日2本目のヒット。2アウトながら、ランナー2塁で3番阿久津に回ります」



なんとかセーフになってほっと一息。


可愛いおケツについた土を払って、ニンマリしていると、その可愛いおケツをグラブでむにむにされた。


「ナイスランす」


また豊田が絡んできたようだ。


「どーも。最近調子良さそうだね」


「いやあ、苦手なピッチャーに当たってないだけっすよ。ボチボチっす」


「でも、さっきのホームランが23号でしょ? 30号いけるんじゃない?」


「ビクトリーズさんが打たせてくれるなら、いけるかもっす」


「最高何本だっけ?」


「去年の28本っす」



「そっか。頑張ってね」


「うっす。新井さんも打率4割、頑張ってキープして下さいよ」


「それは無理だよ」



「またまたそんなこと言ったりして……」




豊田はそんな言葉を言い残し、クスクス笑いながら守備位置へと戻っていった。

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