昼寝したら調子いい新井さん

「1回表、埼玉ブルーライトレオンズの攻撃は、1番、センター、春山」


広元さんの投球練習が終わり、相手の1番打者が力強い足取りで左打席に向かう。


センターの柴ちゃんがライトの桃ちゃん、レフトの俺に少し下がりましょうという合図をして、外野陣が5メートルほど後ろに下がる。



打撃力は12球団でもトップレベルの打線。そんなパワフルなチームの長打が打てる1番バッターだからねえ。


試合の序盤はとにかく長打警戒を第一にして外野は守ってくれと、守備・走塁コーチが普段からよく言っている。



初回にいきなり、ノーアウト2塁。もしくはノーアウト3塁というのは非常に厳しい。


そうなるならば、強打者相手に極端な守備体形を敷いてでも、なるべく長打を許さない守り方をしようというのが最近のうちの方針の1つだ。


まずは頭を越されないように、外野の間に打球が落ちてもシングルヒットで押さえられるようにという守り方だ。


東日本リーグには、東京スカイスターズの平柳。北海道フライヤーズの東川。東北レッドイーグルスの茂手木。そして今打席に入っている、埼玉ブルーライトレオンズの春山と、長打力があり、足も速い左の1番打者が多いからね。




「春山3球目を打ちました!! いい当たりですが、セカンド正面! 守谷が落ち着いて捌いて1塁へ送球、1アウトです」






「源は打ち上げました! ショートフライ。赤月が少し下がりながら落下点掴みました」


1、2番。左バッターが2人並ぶところを広元さんはインコースにしっかりとコントロールして打ち取り2アウト。



「3番、セカンド、豊田」



今度は右バッター。バッターボックスに入り、両足にぐっぐっと力を入れるようにして足場を作ると、ホームベースをバットの先で叩いて、ゆっくりとバットを構える。


ブルーライトレオンズの3番バッター、日本代表にも選ばれている3割30本男。この打線の最も危険な選手。


そんなバッターに対して、広元さん独特のゆったりとしたサイドスローな投球フォームから1球目。


キャッチャーの鶴石さんが構えたところにドンピシャ。


アウトコース低めいっぱいのストレートが決まり1ストライク。


球速は139キロ。


2球目。サインに頷き、1つ呼吸をしてから投げた真ん中低めの変化球。


バッターがそれをすくい上げるようにして引っ張った。


その瞬間、こっちに打球がきた!


俺の体がビクンビクンと反応する。


しかし、それも一瞬だった。


俺の頭の上をあっという間に打球が通りすぎていく。


2、3歩走り出した時には無理だと悟った。


完全に芯を食った、打球がぐんぐん伸びていくやつ。


スタンドを楽々越えて、埼玉ブルーライトレオンズの応援団の真ん中に打球が飛び込んでいった。







「入りました、弾丸ライナー!! ブルーライトレオンズ3番の豊田がレフトスタンドへ23号!!…2試合連続のホームランとなりました!完璧に捉えました!」


「低めのスライダーだとおもうんですがね。ちょっとコースは真ん中でしたかね」


「なるほど。ああ、今リプレイが出ていますがインコースから真ん中に入ってくるようなボールになりました。キャッチャー鶴石の構えは外だったんですが………」


「豊田はね、かなり深く踏み込んで打ってきますからね。ああいう低めの変化球は強いですよ。今のように芯で拾うようにして打っても、スタンドに軽々持っていきますからねえ。もうちょっとインコースを意識させないといけなかったですねえ」






羨ましい。少し前のめりになるようにして、上体は突っ込んで打ってるのに、こんなエグい打球を打つなんて。


俺が同じような打ち方をしても、せいぜいレフト正面にハーフライナーくらいが関の山だろうなあ。スイングスピードが違うんだろうな。


その3番豊田がホームインし、3塁ベンチに並ぶチームメイト達とタッチを交わしていく。


背後のレフトスタンドも大いに盛り上がっている。


3連戦のド頭で、勢い付かせるようなホームランを打たれてしまった感じだ。




「2番、レフト、新井」


1回ウラ。うちの攻撃。先に取られた1点をまずは早く返したいところだったが、柴ちゃんはあえなく凡退。


打席には俺が入る。


ピッチャーは若手の右ピッチャー。迫力あるフォームから150キロオーバーの真っ直ぐに、スライダー、カットボール、フォークボールという持ち前。球。本格派だ。


ミーティングをすっぽかしたので、どんな作戦でこのピッチャーを攻略しようとしているのか分からないが。


この手の速球派のピッチャーの直接的な攻略パターンはだいたい2つ。


球数を投げさせることと、カウントを取りにくる甘い球を狙うこと。


その2つだ。


まあ、まだ初回なのでなるべく球数を投げさせる方針でいこうと思ったのだが、初球がど真ん中だった。


俺はコンパクトにそれを叩く。



カキィ!


打ち返したボールが、ピッチャーに向かって飛ぶ。


しかもグローブがある左手方向に。


しかし、次の瞬間にピッチャーが差し出したグラブの土手付近の変な場所に当たり、3塁方向に打球が転がった。しかも勢いよく、3塁側ライン際へ。


しめた!



俺はニンマリと走り出す。



強襲されてバランスを崩したピッチャーが慌てて転がるボールを拾いにいくが、俊敏な動きではない。


俺は楽に1塁ベースを駆け抜けた。

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