サプライズされる新井さん

「それじゃあ、次は………この具だくさんのちらし寿司を頂こうかな? これは誰が作ってくれたの?」


「あたしよ」


ギャル美が手を挙げた。


「よそってあげるわね」


そう言って立ち上がったギャル美の腋の辺りからほのかによい香りが漂ってきた。


いつもの香水とは違うな。なんの知識もない俺にもその違いがなんとなく分かる。


それくらい最近は一緒にいることが多いからだろうか。


「はい、どうぞ」


いつもより小さめのお茶碗に、少し緊張した様子のギャル美が丁寧にちらし寿司を盛った。


かんぴょうに酢レンコン。たけのこに椎茸。エビに鮮やかな色のサーモン。錦糸たまごもふんだんに。大粒のイクラがたっぷりこれでもかと。そして仕上げの刻みのり。


きざみのり。ギザ・みのり。



なんでもないです。




箸ですくって大口で全ての具材が入っているところをバクリ。


酢レンコンやたけのこのいい食感。椎茸もお出汁で煮た深みのある味が染み出てくる。


サーモンも脂が乗っていて柔らかく、イクラのプチプチもたまらない。


ご飯の炊き方、固さ。お酢の具合も申し分なし!


俺は箸を持ったまま、隣のギャルにウインクしながら親指を立てた。


「マイちゃん、ちらし寿司美味いよ! サイコー! ちょっとだけかわいい!」


「なんでちょっとだけなのよ!」


ボコォッ!



あれー。殴られたぞ。おかしいなあ。ちゃんと褒めたのに。



さやかちゃんのローストビーフサラダ。マイちゃんのちらし寿司。


その後は、オードブルのサンドイッチやウインナー。コーンスープなども頂いて、お待ちかねのあれを待つ。


オーブンレンジの中でじっくりと焼かれているアレ。



まだかなまだかなと、ワクワクしながら、シャンパンをチビチビ飲む俺の目の前で、みのりんが立ち上がる。


それと同時に、オーブンレンジのタイマーがきて、花柄のオーブングローブをはめたみのりんが手を伸ばす。


そこからは、ジュワーッとお肉に火が通ったいい音。


手早くみのりんとポニテちゃんがお肉をナイフで切り分ける。


「はい、お待たせ。新井くん」


一口大にカットされた美味しそうなステーキ。中がロゼピンク色。


まずは塩胡椒の味付けのまま、むしゃぶりつくように口に運ぶ。


ジュワッ、ジュワッ。


はじめの一口で、いつものお肉とはレベルが違う。それがよく分かった。


脂の美味みも違うし、きめ細かい赤身が、最初はあっさりとしながらも、深い美味みがいつまでもにじみ出てくる感じ。


思わず笑顔がほころぶ。それを見たみのりんも笑顔がほころぶ。


「さあ、みんなも食べて、食べて! めっちゃ美味いぞ、このステーキ」


みのりんも椅子にまた腰を下ろして、3人娘もステーキをパクり。



「「うーん! おいしいー!!」」


それぞれがほっぺたに手を当てるようにして、ステーキの味を噛み締めている。


「山吹さん。このお肉、かなりいいお肉だよね?」


「うん。そうだよ。前にバーベキューした時に行ったビクトリーズモールの増田精肉店の。新井くんのお誕生日会をやるんですって言ったら、すごくいいお肉を用意してくれたよ」


「マジか! さすがあのおばちゃん。いい仕事するなあ」



バーベキューの時に、かなりサービスしてもらっちゃったからね。用意してもらったものを買わない訳にはいかないよね。


商売上手だなあ。




ステーキもみんなでペロッと頂きまして、その後もやいやい言いながら、ちらし寿司が入っていた重箱も、ローストビーフサラダも、オードブルのサンドイッチも完食しまして、お腹いっぱい大満足。


そして最後は……。



「電気消すねー」


ギャル美がチャッカマンでケーキのロウソクに火をつけ、みのりんが電気を消し、部屋は真っ暗。


28歳だからって、さすがに28本のロウソクを刺すのがどうかという話になり、バランスよく6本。



その6本のロウソクだけが、俺達4人を照らす。


隣のギャル美からはほのかな香水の香りより感じられ、向かい側ではみのりんの眼鏡だけがキラリと反射して、ポニテちゃんの豊満な胸元だけがくっきりと浮かび上がる。


それをじっと凝視していると、俺のロウソクにも火がついてしまいそうだ。


垂らしたいねえ。ポニテちゃんに、俺のロウを垂らしてあげたいねえ。



「なにしてんのよ、早くロウソクの火を消しなさい」



「あ、ごめん」



ギャル美の声に、俺ははっと目を覚まして、ケーキのロウソクに勢いよく息を吹き掛ける。


フッフッフッー!


「「イエーイ!!」」


すべてのロウソクの火を消すと、3人娘から歓声が上がった。



そして、ポニテちゃんがパチンと部屋の電気をつける。


すると、みのりんの手元には、青色の小箱があった。



「はい、これは3人からの誕生日プレゼント」


みのりんはそう言って、その青色の小箱を俺に手渡した。


俺はここぞとばかりに、みのりんの白く柔らかい両手をじゅうぶんにさわさわしてそれを受け取った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る