幼女相手に本気で照れる新井さん
「そ、そうかもしれませんけど………。でも、しかし……」
さすがは幼なじみというか。ポニテちゃんと同じようになかなか自分の考えを改めようとしないわりと頑固者だ。
まあ、こっちはだいぶお胸の膨らみ具合に差がついていますけどね。
それでも、広報という立場の彼女の考えも俺はよく分かる。
「なんだ、あいつは!みたいに、バッシング受けるんじゃないかとか、宮森ちゃんは広報だから考えるかもしれないけど、大丈夫だよ。結構周りのファンも面白がってたし、ああいうのが逆に子供も嬉しかったりするんだから……。
そう思わない?グラウンドから飛び込んできた野球選手が自分が差し出したジュースを美味しそうに飲んでくれたんだよ? ………俺が子供だったら、友達に自慢するけどね。もしかしたら、俺のファンになってくれるかも……。あの年齢なら、別にイーグルスファンということではなく、観覧車辺りをダシにして親御さんに連れてこられただけだろうしね」
別にそこまでの考えはその瞬間はなかったのだが、後から付けたそうと思えばなんとでも言えるもの。
「新井さん。あの一瞬でそこまで考えていたんですか?」
「あたぼうよ。俺の打率いくつだと思ってんだよ」
「とは言っても、あれですよね。何かお返ししないといけませんよね。その女の子に……」
とりあえず俺の言い分をある程度納得した様子の宮森ちゃんは、そんなことを口にした。
その意見には俺も賛成だ。
相手は小さい女の子だし、なんかマスコットの人形とか、そういうのあげればいいじゃん! そう思って彼女に伝えてみたのだが。
「そんなものありませんよ。ビジターなんですから。ビクトリーズスタジアムの事務所倉庫になら、ホームラン人形とかたくさんありますけど……」
あー、そっかー、そうだよねー。
かといって、俺自身何かあげられそうなものはなにもない。
「仕方ない。ケータリングのジュースとお菓子でいいか」
「そうですね。あ、もう2アウトですよ! チェンジになっちゃいますよ!!」
「わー、いそげー!!」
急いでロッカー横の部屋に飛び込み、透明のプラスチック製のカップに氷をゴロゴロ入れて、果汁100%のオレンジジュースをなみなみ注ぐ。
さらに、テーブルの紙皿に乗っていた、クッキーとおせんべいを宮森ちゃんがその辺に合った紙を折って箱にした入れ物にゴソッと入れてベンチに戻る。
「ストライクアウト!!」
ちょうどうちの誰かが三振したところだったので、片手にオレンジジュース、片手にお菓子の入れ物。
「柴ちゃん、俺のグラブ持ってきてー!」
「ういーすって、何やってんすか!?」
俺はそのままグラウンドに飛び出した。
ジュースを溢さないように、ベンチから左中間スタンド目掛けて、ちょこまかちょこまかと小走りダッシュ。
ひぃひぃ言いながら、さっき飛び込んだフェンスに飛び乗る。
そこにいた多くの観客がなにごとかと、フェンスにまたがる俺を驚いた表情で見つめている。
「さっきの子ー、さっきジュースくれた子はいるかねー!」
辺りを見渡しながら俺は大声で呼び掛けた。
すると、ちょうど正面の2列目くらいの席から、さっきの女の子が少し戸惑いながら立ち上がり、隣にいたお母さんらしき女性に連れられて前に出てきた。
俺はフェンスから身を乗り出すようして、女の子に両手を伸ばす。
「さっきはありがとね。お兄ちゃんからのお返しだよー」
俺がニコッと笑いながらそう言うと、女の子も同じくらいニコッと笑いながら、ジュースとお菓子を受け取った。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「どういたしまして。お名前はなんていうのかな?」
「あおい!」
女の子は元気よく答えた。
「あおいちゃんは野球好き?」
「すきー」
「どこのチームが好き?」
「イーグルスー!」
まあ、そうよね。東北の子ですもんね。
「あおいもお兄ちゃんにお礼する!」
「お礼?あはは、いいよ。これはさっきの………」
チュッ。
はうっ!
あおいちゃんは俺の右頬に軽くキスをしました。
野球選手は普通に照れました。
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