やはりみのりんのお料理は素晴らしい

「はーい、今日もお疲れー!!」



氷の入ったグラスに、レモンチューハイを溢れんばかりに、これでもかとなみなみとギャル美さんは注ぐ。


そして4方向から激しくグラスをぶつけ合うと、溢れたレモンチューハイの液体が指に垂れる。


俺はそれを啜り取りながら、グラスにも口をつけてキンキンに冷えたそれをグイグイッと流し込んでいく。


レモンのきりっとした酸味の入ったよく冷えた炭酸酒。それで2回、3回と喉を鳴らすと、試合後の疲れて火照った体を少し冷ましてくれる気がした。



「さっき食べたばかりなんですけど、またお腹がすいてきてしまいました」


「そんなさやかに、ちゃーんとおつまみ用意してるよ。はい、スライスサラミと浅漬けのキュウリとナス」


「さすがマイさん!」


「さやちゃん、後ろの棚にポテトチップスあるから食べていいよ」



「本当ですか? ありがとうございます」



ナイトゲームの延長戦終わりなので、みのりんの部屋に着いた頃には、もう日付が変わりそうな時間になっていた。




3人娘の中でも、1番嬉しそうにしているのかギャル美様。



「それにしても、あんたが1番だなんてびっくりしたわね。もう勝ちを諦めたのかと思ったわ」


何時から飲んでいたのか知らないが、なんだか既にギャル美は出来上がってしまっているようだ。


白い生地で金色のロゴが入っているTシャツの胸元をユルユルにし、さらにその袖を両方グイッとまくりあげる。そんな気はないのか、わざとなのか、ご褒美のつもりなのか。


ちゃんと処理済みの脇をチラチラと俺の視界に入れながら腕を伸ばし、サラミが乗ったキュウリをカシュッとかじる。


そしてそれをもぐもぐすると、グラスに入ったレモンチューハイをぐいっと飲み干す。


「でも、新井さんが打率も出塁率もチームで1番高いなら、1番で起用するのは当然ですよね」


スマホの画面を見ながら、みのりんが進めたポテチの袋をパーティ開けして広げながら、ポニテちゃんは得意気な表情をした。



あなたに関する一通りの数字はもう覚えちゃいましたよ。そんな顔を俺に向ける。


野球を覚えてから、なんだかデータ厨になりつつある様子だ。


出会ったばかりの、カフェのエプロンを着けて、冷たく蔑むような視線を俺に送ってくれていた頃が懐かしい。



「はい、新井くん。お待たせ」


キッチンに向かっていたみのりんが振り向き、俺に白い大皿を差し出す。


今日のメニューは、ジューシーな豚肉のしょうが焼きに、キャベツの千切りとごぼうサラダ。


納豆入りの味噌汁からも美味しそうな湯気が立っている。




「いただきまーす!!」





「うまっ、うまっ!山吹さん、おかわり!!」


「はい。そんなに慌てて食べなくても大丈夫だよ」



「いやあ、本当に美味しくて」


一瞬で空になったどんぶり茶碗を目の前に座るみのりんに手渡す。


すると彼女は、嬉しそうに微笑みながら立ち上がり、炊飯器の前へ。



ピンク色のしゃもじを手にして、くらえっ! とばかりに茶碗いっぱいに白飯をよそって俺に渡す。


「お味噌汁もおかわりする?」



「うん、お願い。納豆汁も美味いね!なんだかいつもの味噌汁と違う感じで……」



俺がそう感想を述べると、空いたお椀を手にしながら、みのりんは少し唇を尖らせた。



「よく分かったね、新井くん。実はお味噌をちょっと高いものに変えたのです。減塩なのに美味しいお味噌ですよ」


「ふふふ、やはりね。違いの分かる男ですからね、わたくしは」



「なあに、調子に乗ってんの。たまたまでしょ」



ギャル美が肘で小突くようにしてそう指摘すると、ポテチを食べていたポニテちゃんがむせたのが何度も咳を繰り返した。




お玉ですくいトポトポトポと。丁寧注いだ味噌汁持ったみのりんが振り返ると、もう俺の白飯が空になっていた。



「山吹さん、おかわり。プリーズ」



「はやっ。ちゃんと噛んでる?」



俺は空になった茶碗を山吹さんに投げつけると、バシィとそれを受け取った彼女は、これでもかと、天井につきそうになるくらいに白飯を盛ると、テーブルにドーンと叩きつけた。


その衝撃で、ポニテちゃんの胸が揺れる。






そうなれば面白いのにと思いながらも。



「はい、新井くん。お味噌汁。しょうが焼きもまだあるから、たくさん食べてね。お野菜もちゃんと残さず食べること」



女神のような優しい笑顔に見守られながら、酔ったギャル美に茶々入れられながら、俺はみのりんの手料理を存分に堪能したのだった。






「いやー、食った、食った!今晩もサイコーでございました」



しょうが焼きが大変美味しゅうございまして、ご飯も納豆汁も何回もお代わりしまして、デザートのイチゴちゃんも頂きましたから大満足でございやす。



「そういえば、新井くん。デッドボール大丈夫だった?」


ダイニングから隣のリビングに移動して、ソファーで偉そうに座る俺の横を、食後のお茶を入れるみのりんがキープしてきた。



楽しげに話していたギャル美とポニテちゃんもそう訊ねた瞬間だけは、心配そうに俺の方を見る。



「変化球の抜け球とかならまだしも、おもいっきしストレートだったからね。ボール当たったところ見る?」


俺はそう言いながら、彼女達の返事を待つことなく、着ていたシャツをぺろんと捲る。


すると…………。



「ええ………。そんなになっちゃうの……」



みのりんは口を手で覆うようにして目をぎょっとさせた。


紫色になって、ちょっとグロテスクな感じだからね。ショックを受けるのも無理はない。



なのにギャル美は………。



「チョー、ウケる! めっちゃ紫じゃん! ヤバ! 写真とろー、写真!」



吹き出すようにして笑い出し、スマホを取り出してパシャパシャと撮影し始めた。



そしてポニテちゃんは近くまできて、息が当たるくらいまじまじと見つめると………。


「あ!よく見たら、なんだかハートマークに見えません? 可愛いですね!」




「可愛くねえよ! ただ痛いんだよ!」




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