実況！４割打者の新井さん

必殺プレー炸裂の新井さん２

「さあ、両チームに大きな分岐点になりそうなプレーでしたが。何はともあれ１アウト１塁と場面は変わりました。１点リードのビクトリーズ側は助かりましたが、打順は４番です。気は抜けません」

少なくともノーアウト１、３塁になりそうな場面が１アウト１塁になったのだがら、なんとかなるんじゃないかと思ったら、４番バッターの痛烈な打球がまた俺のところに飛んできた。

ズギュンと思い切り引っ張られた打球が、フェンス際まで下がっていた俺の頭上まであっという間にきた。

真芯を食った低い弾道のドライブがかかった打球。フェンスについてジャンプすれば捕れるかもしれない。

そう思ったが同時に、本当に今選択すべき外野守備というものが頭をよぎる。

アマチュアレベルの守備力の俺がでしゃばったところで、センターの柴ちゃんやライトの桃ちゃんみたいな、あっと言わせる守備をするのは難しい。

さっきみたいなものは置いといて。

だから俺は、守備の負担が少ないレフトをな守っているのであり、そうは言っても、柴ちゃんや桃ちゃんよりも年上な俺は身体能力で劣る分、クレバーなプレーをしなければならない。

最後まで打球は追わない。無理に追いかけ回さない。

思わずジャンプしたくなる衝動を必死に押さえて、フェンスからのクッションボールを冷静に待つ。

「打球は、レフト新井の頭上を越えました！ フェンスダイレクト！！ ………しかし、クッションボール！新井からの返球が速い！ １塁ランナーは３塁ストップ、打ったバッターも１塁に止まりました、止まりました！ １アウトランナー１、３塁です」

「……これは、これはいい守備ですねえ、新井選手。さっきのプレーとは別人のようですねえ。下手に打球にチャレンジして失敗しては失点は確実だったでしょうからね。いい判断ですよ」

「ええ！ フェンスダイレクトという当たりでしたが、１塁ランナーは３塁止まり。バッターランナーも１塁まで！長打にしませんでした」

自分なりにいいプレーが出来たと思うが、結局ピンチには変わりない。

１アウト１、３塁となり打順は５番。

連敗脱出のためには、１点もやることは出来ない。

吉野ピッチングコーチがマウンドに向かい、内野陣が集まって何か話している。

１分もしないうちに、急かす審判に促されて、輪が解けてコーチがベンチに戻る。

ピッチャーは交代しないようだ。

帽子を外して、額の汗をアンダーシャツの袖で拭って、ロジンバックを握る連城君。

彼を励ましたりすることは出来ないかもしれないが、ピンチを迎えたうちのエースナンバーの後ろを守る野手の１人として、最善のプレーをしようと心に誓う。

そして、おあつらえ向きの打球が俺の頭の上に上がる。

食らえ！ スカイスターズ。俺のレーザービームを！

「打ちました！ レフトに上がった！！ ほぼ、定位置か………。レフト新井が捕って、サードランナーがタッチアップでホームに向かう！！ 新井からワンバウンド、ツーバウンド、スリーバウンドでボールが返ってきますが……間に合いません！ セーフ、スカイスターズ、２ー２どうてーん！」

ごめん、俺の肩では無理だった。

何回スコアボードを見ても、３塁ランナーを返してしまったことで２ー２の同点となってしまった。

すると、ついに追い付いたと後ろのスカイスターズ応援団は大盛り上がり。

まるで天地がひっくり返ったように雰囲気が変わり、一気にスタジアムが逆転ムードに変わる。

キャッチャーの鶴石さんやサードの阿久津さん。

２人のベテランがマウンド上の連城君に声をかけにいく。

まだ同点だ。大丈夫、大丈夫。

そんな感じで励まされながらも、２アウトとはいえ、リードがなくなったことで、それまでは相手を封じていた投球。まだリードしているというのがマウンドに立つ連城君のピッチングを支えていた柱には違いなかった。

初回から一瞬も気の抜けない展開。１番から９番まで、しぶとく食らいついてくる打線。

自慢のスタミナは確実に消耗してしまっていて、少しずつ甘くなり始めるコントロール。なくなり始めたストレートの威力。変化球のキレ。

それを同点に追い付いた東日本リーグの首位を走るくらい強いチームが見逃すはずはなかった。

ボール球をきっちりと見送り、バッター有利なカウントにして、好球をしっかりと叩く。

このあとさらに、フォアボールと３本のヒットが繋がり、北関東ビクトリーズはこの回さらに３点を失い勝ち越しを許した。

痛恨。痛恨の３失点だ。