平柳君、止めて下され。

「右中間に上がった、センターライトが追う! 右中間の真ん中だ! 犠牲フライには十分か!?


3塁ランナー柴崎はタッチアップの構え………。回り込むようにしてセンターの佐藤が掴みました! 柴崎スタート!!………センターからワンバウンドでボールがホームに返ってきましたが、間に合いません! セーフ! ビクトリーズ、さらに1点を追加しました!4番赤月の犠牲フライです!これで2ー0!リードを広げます!」



センターからの好返球も、ほぼ定位置からのしかも右中間に走り込みながらの距離感では、俊足の柴ちゃんを刺すことは出来ずに、そのままホームイン。




バスターで2塁打を打った嬉しさもあるのだろう。柴ちゃんが小躍りしながら俺よりもニッコニコでベンチに帰ってきた。



「新井さん、見ました? 俺の繋ぎ!流し打ち!」


隣に腰かけた柴ちゃんが興奮気味で話しかけてくる。目がギラギラ。



見たも見ないも、俺はランナーだったし、めんどくさいやつだなあと俺は思った。


とりあえずきっちり犠牲フライを放った赤ちゃんが帰ってきたので、立ち上がってナイスと、手を差し出した。


「ちょっと、新井さん! 俺のことも褒めて下さいよ!」



褒めるもなにも、打率2割3分5厘って。



もうちょっと頑張って下さいよ。







「早くも試合は7回に入ります。ビクトリーズは4回、新井柴崎の2人で作ったチャンスを阿久津の内野ゴロ。赤月の犠牲フライで2点を先制。


そしてその2点リードを保ったまま、背番号18。ドラ1ルーキーの連城達弘が7回のマウンドに上がります」



「きれいな形の得点ではありませんでしたが、15連敗中ですからね。形よりも、とにかく先制出来たこと、それも1点ではなく2点取れたのは非常に大きいですねえ。


今日の連城はいつもより低めのコントロールがいいですねえ。どうしてもこのピッチャーは投げ急いで勝負したがるんですけどねえ。そこはキャッチャーの鶴石君が上手くリードしていますよ」



「今日の連城は6回までで球数は、90球。被安打5、与四死球も3つあるんですが、併殺打が2つ。鶴石の盗塁阻止も2つありました。どうでしょうまだ球数的にも、この回をなんとか投げきってくれれば………というところでしょうか、大谷さん」



「そうですねえ。8回は、ロンパオ、9回は岸田がいますのでねえ。この7回を0に抑えてくれたらいよいよ連敗ストップが見えてきますけど………。先制した直後。この回が正念場でしょうねえ」



「東京スカイスターズ、ラッキーセブンの攻撃は1番から。現在東日本リーグ首位打者の平柳から始まります」





「7回表、東京スカイスターズの攻撃は……1番、ショート、平柳」


相手チームの看板選手が打席に入ると、スタジアム中はものすごい盛り上がり。唸るような歓声が響くレフトスタンド。


うちのホームスタジアムなのに。まるでビジターかと、水道橋ドームで守っているのかと錯覚してしまうような歓声をスカイスターズファンが束になって発している。



バックスクリーンには、平柳君の今シーズンの成績が顔写真ととも表示されている。



打率3割4分2厘。14本塁打。42打点。14盗塁。


打率は東日本リーグ1位。ホームランは日本人の中では3番目。盗塁は2位タイ。


素晴らしい成績。高打率に1発もあるし、塁に出れば盗塁も出来る。


そして、2年連続ゴールデングラブ賞を獲得している抜群のショートの守備もある。


理想的な1番打者。理想的な野球選手だ。



ファンの期待も高い。レフトスタンドを見上げれば、ところどころに平柳君の応援ボードがたくさんある。



そんな彼から始まる7回の攻撃。簡単にポカーンと打ち上げてくれれば非常にうちとしては楽なのだが、そう甘くはなかった。



「外のボール打ちました、レフト線フェアです! さあ、2塁までいけるか、新井が打球を追いかける!」






まずは確実にストライクが欲しいバッテリーの狙い、外側のストレートを狙いすましたように平柳君が見事な流し打ち。


上体が開くのを我慢しながら、コンパクトにバットを出し、上手くヘッドを効かせてボールをミートした。


素晴らしい。


思わず拍手したくなるような見事な流し打ち。



打った瞬間は、シングルヒットで押さえられるかなと思ったが、意外に打球の球足が早く、あっという間に俺の横を抜けていきフェンスに到達する。



ライン際のファウルゾーンからのクッションボールを右手で拾って急いで2塁に送球したが、平柳君は余裕で2塁に滑り込んだ。



「7回表、先頭の平柳がレフト線ツーベース!!ノーアウトランナー2塁です」



「少し甘く入りましたかねえ。外のまっすぐだとおもうんですが、初球にしてはちょっと高かった分、強い打球を打たれましたね」




やばい。



2点リードしているのに、ツーベースを打たれたくらいでやばいと思っているのは、15連敗中だからだろうか。


今日は頑張っているとはいえ、いつものように、連城君が無駄なフォアボール出したり、続けざまに打たれる気しかしてこない。


こういう嫌な予感がした時は、俺のところに飛んでこないうちになんとなくチェンジにならないかなあと考えたりするのだが。



「打ちました! いい当たり!左中間!! レフトの頭上だ!新井がジャンプしますが…………越えていきましたー。タイムリーになります!」





俺のとこばっかり。

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