たい焼き食われた新井さん
どうかしてるな、この球団は。
なんて悠長なことを言っていられるのは、その時だけだった気がする。
埼玉との2連戦を終えて、ビジターでの首位、東京スカイスターズ戦に挑んだのだが、この3連戦を全敗。
3ー5、2ー3、4ー5と一見すれば悪くない、最下位のうちとしてはなかなかの試合展開だったのだが、いずれの試合も終盤の逆転チャンスを相手の強力な救援陣に阻まれ、同じピッチャー達にやられ続け、接戦を3日続けて落とした。
まあそれだけなら相手は首位のチームだし、あまり悲観はしていなかったのだが、今度はホームで5位横浜との3連戦。
なんとか2つ以上勝って、最下位のうちとしては1つでもゲーム差をつめたかったのだが、この3連戦も大苦戦。
初戦、うちの先発が初回から乱調で小刻みに得点を許し、中盤まで4点のリードをつけられた。
終盤、疲れの見え始めた相手先発をビクトリーズ打線が捉えかけるが、うちの4番赤ちゃん、5番シェパードがここにきて大ブレーキ。
1、2、3番で幾度なく作ったチャンスに得点が入らない。
2人で9打数ノーヒット5三振2併殺と散々たる結果で3連戦の初戦を落としたのだ。
2戦目も前の日の悪い流れが変わることなく、回の先頭打者が幾度となく出塁、得点のきっかけは作れるものの、バントや盗塁の失敗でことごとくランナーが無駄死にし、試合を有利に進めることが出来ない。
さらに守る方でも、リーグ最多失策を誇るビクトリーズ内野陣にミスが連発し、そこを相手につけこまれ、立て続けに失点。
決して悪いピッチングでなかった先発の広本さんも熱投むなしく5回3失点でマウンドを降りた。
変わった中継ぎ陣もその悪い流れを止めることが出来ずに、相手4番打者のダメ押しとなるホームランが俺の頭上を越えていった。
最終回に守谷ちゃんの今シーズン第1号が飛び出すも、時すでに遅し。
3ー8でこの試合も落とした。
さすがに、このカードの3連敗。前カードからの6連敗はまずいと、ドラ1ルーキーの連城君が決死の覚悟でマウンドに上がる。
チームの連敗を止めるのは俺だと言わんばかりに、背番号18番の22歳が躍動した。
持ち前のマウンド度胸と150キロのストレートに高速スライダーのコンビネーションでうちとの2試合で勢いづいていた横浜打線を封じ込めていった。
しかし、そんな未来のエース格のドラ1ルーキーの好投を12球団1の貧打であるビクトリーズ打線は見事なまでの見殺し。
8回を被安打4、1失点の連城君に負けじと、8回まででヒットは僅かに2本。
初回に俺が11球粘った末に放ったセンター前ヒットと、エラーなりなけだったショートへの桃ちゃんの内野安打のみ。
それでは当然点が入るわけもなく、結局0ー1でこの試合も負けて、ストレートの6連敗で7月を迎えることになり、今度は宇都宮で東北レッドイーグルスとの2連戦が始まる前日の移動日。
今日は試合がないわけだが、6連敗という結果を受けてか、一部の選手を除いて、ビクトリーズスタジアム横のサブグラウンドでの練習が命じられていた。
その6連敗する間、まあまあ悪くない成績だった俺。
しかし残念ながらその一部の方に入れることが出来ず。午前11時。
いやいやダルダルな感じで、しゃーなしビクトリーズスタジアムに顔を出した。
クラブハウスで適当なトレーニングウェアに着替え………。
「ういーす……」
みたいなノリでサブグラウンドの方に行って見ると、室内練習場の方から、硬球を木製バットで打ち返す、乾いた打球音が絶え間なく響いていた。
「あ、新井さん! おはようございます!」
両開きのドアを開け、緑色のネットをぺろんとめくりながら室内練習場に入ると、中のメインゲージではマシン打撃を。
そこより小さいサブネットではティーバッティングを順番で行っているようだ。
入り口近くに立って、マシン打撃の順番待ちをしていたグリグリ頭の浜出君から、ひいふうみいと何人の野手が来ているのか数えていると、きっちり若手の選手はみんないる。
どうやら俺が最後の1人だったようだ。
「おい、新井。遅いぞ!マシン打撃、浜出の次はお前だぞ。早く準備しろ」
チームの貧打による低迷に1番責任を感じているだろう、1軍の打撃コーチも休み返上でスタジアムに来ていた。
給料がたんまり入ったので、10コの大人買いした、美味しいと評判のたい焼きをむしゃむしゃする俺をサングラス越しに打撃コーチは睨み付ける。
「新井、1番遅く来たくせに、美味そうなもん持ってるじゃねえか」
そして、紙袋に入っていた俺のたい焼きを1つ奪われた。
ひどいコーチだ。えーん! えーん!
「泣いてねえで早く準備しろよ。もう1個食っちまうぞ」
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