たまに変なことを言い出す新井さん3

はぁー。よかったー、勝ったー。


俺は喜びが込み上げるというよりも、ずっしりとした肩の荷が少しだけ下りたような安堵感を感じていた。


スタンドで喜ぶファン達の姿を眺めながら誰よりもゆっくりと走る俺はハイタッチするチームの列の最後尾に入って、ベンチに戻っていく。


自分のバットやリュックサックなどの荷物を持って、ベンチ裏に下がった俺は、その場に座り込む。


乾いたタオルで顔全体を拭いながら、リュックの小口チャックを開けて、手の平サイズの缶を取り出し、その中身を顔に塗り広げていく。


この後はヒーローインタビューだからな。早くドーランを塗っておかないと、広報の人が呼びにきてしまう。


「新井さーん」


ほら、来た。俺を呼ぶ広報担当の彼女の声。


ドーランを塗り塗りする俺の側にやってきた。


「新井さん、何をやってるんですか?」


「え? そりゃあ、これからヒーローインタビューだから。待ってて。もうちょっとで塗り終わるから」


「今日のヒーローインタビューは、岸田さんなんですけど」


は? 彼女が何を言っているのか分からない。今日はどう考えても俺だろうが。キッシーなんて昨日打たれただろうが。


「怒ってたヘッドコーチが新井さんのことを呼んでたんで。すぐに監督室に行って下さい…………。岸田さーん! あ、いた! アイシング終わったらヒロインお願いしまーす!」



そんなバカな。





「えー、こちら放送席。ヒーローインタビューです。本日の勝利投手であります、北関東ビクトリーズ、岸田投手です。お疲れ様でした」


「はい、お疲れ様です」


「えー、今日は8回ノーアウト満塁でのリリーフでしたが、見事無失点、いいピッチングでしたね」


「ありがとうございます」


「今日はサイドスローで、横のスライダーを交えた、いつもとは違うピッチングをなさっていたように見えましたが」


「そうですね。最近、ピッチングフォームのバランスが崩れていたんでね。試合前から少し横から試す投げ方をしていました。結構感触よかったんで、そのまま試合でやりましたね」



「思いきった大胆な決断ですねえ。吉野ピッチングコーチのご指導ですか?」



「いえ。実はアドバイスしてくれたのは同い年の………」



















「バカヤロウ!! 自分の判断だけで勝手な走塁してんじゃねえ!」




キッシーのヒーローインタビューが行われている最中、俺はしっかりめに怒られていた。



「すみません! あんまり周りが見えなくて……」



「ライトに打球が飛んだら見えねえんだから、3塁コーチを確認するのは基本だろ! 新井、次やったら、罰金だからな! 分かったか!!」



「サー、イエッサー!!」



うわーん! ヒーローインタビューだと思ったのにぃ。


どうして怒られなくちゃいけないんだよ。



宇都宮に帰ったら、みのりんの控えめなお胸に飛び込んでやるもんね!





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