キッシー、今度こそ頑張って1

「赤月、ナーイバッティーン!」


「オッケーイ! ナイスホームラン!」


「すごいな! めっちゃ飛ばしたな!!」


監督を先頭にして、1列に並んでホームランを打った赤ちゃんを出迎える。


ハイタッチしたり、グータッチしたり、頭をバチンバチンされたりして可愛がられた赤ちゃんが列の後ろまで来た。


俺は最後尾で彼を待ち受け…………。






何もしないでベンチへスタスタ。


ホームラン人形を抱えた赤ちゃんがずっこける。


「新井さん、なんすかー! 祝って下さいよ!」


「6月半ばでまだホームラン6本目かよ。しかもランナーいない時に打ちやがって。とりあえず10本打ったらほめてやるよ」



と言いつつ、人工芝に片膝をついて、アキレス腱を伸ばすようなポーズで、赤ちゃんと低いところでバチンと手を合わせた。


「イエーイ!!」


「ウエーイ!!」




よーし、4番にこんな当たりが飛び出す今日はいけるかもしれないぞ。










「さあ、試合はあっという間に9回ウラを迎えました。4回の赤月のソロホームランが両チーム唯一の得点。スコア依然1ー0。北関東ビクトリーズ1点リードで、9回ウラ、東北レッドイーグルスの攻撃であります」


試合はスイスイスイスイ進み、あっという間に最終回。今日はうちの投手陣達の調子が珍しくよさげで、3人のピッチャーで継投して8回まで0を並べた。


そして、8回ウラに登板したセットアッパー、ロンパオの後を継いで、ビクトリーズのストッパーがマウンドに上がる。


「ピッチャー、李に代わりまして、岸田。ピッチャーは、岸田。背番号21」


マウンド上には、背番号21。背水のキッシーがマウンドに上がる。


大量リードしてた試合で3失点するなど、精彩を欠いているキッシーのピッチング。


それでも首脳陣は1点リードの最終回にキッシーをマウンドに送った。


そして、今日あたりシャキッとしたピッチングをしなければ…………という状況だ。



カンッ!


いきなり右バッターにあっさり俺のところまで打ち返されているけどね。




「レッドイーグルス、9回先頭打者が出塁しました!8番島が今日初ヒット! ノーアウトランナー1塁です」


2球目のストレート。149キロの速いボールだったが、あっさり引っ張って捉えられレフト前ヒット。


三遊間を速い球足で破って俺のところまで転がってきた。


これはまずい。


1点リードとはいえ、先頭打者を塁に出すとは。



「おっと! ここは送りバント! ピッチャー前です。岸田が捕って1塁へ送球アウトになりました!1アウトランナー2塁。打順はトップにかえりまして、1番の丘島です」


1発であっさりバントを決められ、ランナー2塁。


これはもちろん返すわけにはいかないと、外野陣は前進守備体制を敷く。


しかしマウンド上のキッシーは、打たれてはいけないと力んだのか、制球が定まらずに、フルカウントまで持ち込むも結局フォアボール。


1アウトランナー1、2塁。


打席には、レッドイーグルスの今年の象徴といえる超攻撃型オーダーの、2番打者。ドミニカ出身の大柄な左バッターの外国人が打席に入った。




身長192センチ体重118キロという大きな体。


レフトの守備位置から見ていても、野球選手としても大きいそのすごい体つきがよく分かる。


マウンドにいるキッシーやキャッチャーの鶴石さんがすごく小さく見えるくらい。


スタンドのボルテージもガリガリ上がっていき、レッドイーグルスファンとしては、助っ人ドミニカ人の豪快な一振りで一気にサヨナラを期待しているだろう。


キッシーのストレート。ストレート。そしてフォークボール。


ドミニカンのスイングが空を切った。


「最後は膝元のフォークボール! 空振り三振です! これで2アウト。ここはいいボールを投げました、マウンドの岸田」


「低めのフォークはいいところに落ちましたねえ。あそこは手が出てしまいますよ」


低めに落ちたフォークボールを捕球したと鶴石さんがミットをキッシーに突き出した。


長身のバッターの膝元にボール球になるフォーク。空振りを奪うなら理想的なコースと低さだ。


左バッターにはいいボールを投げるんだよな。



左バッターから見れば…………。

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