食事制限される新井さん2

昨日の晩飯でお肉にありつけなかったのに、今日の朝もそう。せっかくレストランのシェフがジューシーな厚切りベーコンを焼いてくれていたのに、またぺったんこの女性スタッフが現れ、ご相伴に預かることは許されず。



お野菜とスープのヘルシーメニューで試合に臨むことになってしまった。



しかしなんだかいい感じ。試合は投手戦モードだが、俺は両チームで唯一のマルチヒットを記録していた。





「柴崎に対してはフォアボール! これで満塁になりました! 北海道フライヤーズ。この8回まで1ー0とリードしてきましたが、ここにきて先発の下沢がピンチを迎えます。ここまで要所を抑えて、ビクトリーズ打線を0に抑えてきましたが……」


「ここは正念場ですねえ。しかし、交代はないんですねえ」


「下沢はここまで110球。フォアボールも僅か1つと。8回2アウトまでで110球ですから、決して多過ぎる球数ではありません。しかし……迎える新井には初対戦ながら2安打を打たれています。ここはどう攻めますか……」


「疲れて握力も無くなっているでしょうからね。フォークボールは使いにくいです。ここはもう、ストレートで強気に攻めた方がいいですねえ」


ネクストバッターズサークルにいて、柴ちゃんがフォアボールを選んだ時は、よしっ! と、思わず声を出してしまった。


それくらい、今日の俺は調子がいいのだ。





今日は2本ヒットを打ったピッチャーが交代せずにまだマウンドにいてくれている。


まあ、俺ごときのルーキーで交代するわけにはいかないよな。



その判断が甘いのよ。フライヤーズさんよ。2度あることは3度あるってね。




「2番、レフト、新井」


打席に右足を入れただけの状態で、視線を上げて相手の守備陣を観察してみる。


内野はやや後ろめに守り、逆に外野陣はやや前に守っている。


さらにセカンドはさらにやや後ろで1、2塁間を詰めていて、ライトはライン際にも寄っている。


さすがに俺のヒットゾーンを分かっているみたいだ。


ほぼ1、2塁間とライト線のヒットばっかりだからね。それしか出来ないし。


ちょっと困ったなあと思ったが、センター前が少し広いから、ピッチャー返しの意識を高めて、そのエリアを狙おうと決めて打席に入り、バットを構える。


ここまで俺がヒットにした2本とも、打ったのはどちらも変化球。


単純に考えれば、ストレート1本勝負。それも、球数が110球を越えたところでの全力投球のストレート。


多少高めに入る球もあるだろう。


1、2、3のタイミングのままでは、きっと力の込めた土壇場のストレートに差し込まれるだろう。


1、2、3ではなく、1、2,3くらいの少し早めのタイミングで振り負けしないように打ち返してやろう。




1、2,3。


1、2,3。



バットを構えた状態で何度も、何度もタイミングをイメージする。


ほんのワンテンポ早いタイミングを自らの心の中で唱え続けながら、バットを肩で担ぐように構え、足を少し開き気味のオープンスタンスでピッチャーの球を待つ。


「マウンド上の下沢。キャッチャーとのサイン交換を終えまして、セットポジション。ランナー満塁!バッターの新井は、初球から積極的に振ってきますが………投げました!」



1、2,低い!!



「低めストレート外れてワンボール」


「うん、いいですね。これぐらい慎重に入った方がいいですよ。やはり2安打されていますから、まずは速いボールで様子見といったところですね」





インコース低め。横のコースは内側のストライクゾーンだったが、ボール半分ほど低いところだった。


よーし、いいぞ。見えてる、見えてる。



「さあ、初球ボールからの2球目…………。投げました!!またストレートだ!」



1、2,3!!



カンッ!!




ピッチャーが振った右腕から浮き出てくる白いボール。計ったタイミングはドンピシャで、初球よりも少し高い、ストライクを取りにきたストレートをしっかりと芯で捉えた。




打球が真っ直ぐ。イメージよりも随分とよさげな打球がグイーンと飛んでいく。






「いい当たり! 右中間!! ………センターライトは前進守備! その間を………破ったー!!」

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