ヒーローインタビューをしたい新井さん13

頼むー。なんとかなってくれーい。


この打球がヒットになり、また長打になってしまったらと考えたら、その打球をまともに見ることが出来なかった。


怖くて。


しかし、顔を覆ったグローブの編み込みの隙間から、フェンスいっぱいのところでライトの桃ちゃんがその飛球を掴んだ。右手を側まで迫ったフェンスを押すようにしながら。なんとか打球をキャッチしていた。


あぶねー。もうちょっとでフェンスダイレクトになる当たりだった。



あわよくばホームランという打球に、スカイスターズファンのため息がこだました。


2塁ランナーはタッチアップで3塁に向かったが、とりあえずアウトを1つ取れたことが大きい。


「2番、佐藤の当たりはライトのへの大きな打球でしたが、ライトの桃白がフェンス際なんとか掴みましてようやく1アウトです。1アウトランナー3塁になります」


「んー。岸田は悪いボールではないんですけどね。今のボールもアウトコースいっぱいの球ですから。それを流されてライトのフェンスギリギリまで飛ばされましたからね。やはり、ボールの質が悪いんでしょうね」



アウトを1つ取ったことで、だいぶ雰囲気が変わって守りやすくなってきたが、今の打球の飛ばされ方を見る限り、安心できることはなに1つない。





ピッチャーが心理的に追い込まれて、投げにくい状況ではあったが、今シーズンはまだホームランのなかった2番打者。



ど真ん中や高めにいっちまったみたいな失投ならばまだ分かるのだが、外角低めにしっかりコントロールはしたボールだったからなあ。まあ、コントロールしただけのボールだったから、威力がなかったとも言えるけど。


ともかく、パワータイプではない右バッターに、ライト方向に弾き返され、あわやホームランというところまで飛ばされてしまっているのは大きな問題だ。


球に力はあるはずで、チームの守護神を任せられているピッチャーがバッターに力負けしてしまうようでは、ベンチも自信を持って送り出すことは出来ない。


「この打球も高く上がりました。左中間大きな当たりですが、これもフェンスいっぱいのところ。……柴崎がこちら向き、打球を掴みました! 3塁ランナー平柳がタッチアップ! …………ホームインしました。これで5ー7。東京スカイスターズ、3番勇本の犠牲フライでさらに1点を返しました」


3番打者の当たりもこれまた大きな飛球。向かい風でなければどうなっていたのだろうかと思ってしまうようなセンターへの打球。


指をくわえてぼけーっとレフトからみていると、フェンスに右手をついた柴ちゃんが少し背伸びをするようにしてなんとか打球をキャッチした。


3塁ランナーがタッチアップしたが、柴ちゃんはゆっくりと内野へボールを返した。




「これもいい当たり! しかし、サード阿久津の正面です。ガッチリと掴んで1塁へ送球しまして………スリーアウト! ゲームセット!


7ー5!ビクトリーズ、最終回に詰め寄られましたが、スカイスターズとの3連戦の3戦目をなんとかものにしました。連敗は7でストップです!」


はぁ〜……。ようやく勝った。


約10日ぶりの勝利。1塁ベンチ前にチーム全員集まってハイタッチするのも久々だ。


7連敗という結果が消えるわけではないが、とりあえず、とりあえず1つ勝てたことに素直に喜び、安堵する。


しかしそんな中でもマウンドに上がっていたキッシーの表情が曇ったままだった。まあ、到底納得のいくようなピッチングではなかったのは誰の目にも明らか。


それでも、とりあえず勝ったので今日のところはオッケー。そんな雰囲気だ。


そんな彼も、ロジンが付いた指先をおケツで拭いながら、他のチームメイト達に混ざってファンへ挨拶をして、ベンチに戻っていく。


そんな中、逆流するようにベンチ裏から女性スタッフが現れる。


「阿久津さん、阿久津さん」


「はい」


「ヒーローインタビューの準備お願いします」


「了解」




ヒロインは阿久津さんか。



「おーい、今日はミーティングなしなー。あと、あさっては羽田経由で行くからなー。朝、宇都宮駅に集合だ、遅刻すんなよー。夜、スケジュール全員に送るから、ケータイ確認しろよー」



コーチおじさんの1人が忘れない内にと、大きな声で通達した。何人かの選手が返事をする。


「ういーす!」


「分かりやしたー」


ベンチに戻り、たくさん人がごった返しながら、ガヤガヤしている中、最後マウンドにいたキッシーが静かに吉野ピッチングコーチに呼ばれていた。

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