ヒーローインタビューをしたい新井さん12

カツーンと乾いたいい打球音とともに、俺の頭上を白球が越えていく。


グローブを出す暇もなく、あっという間に打球はフェンスに当たって跳ね返り、勢いよく俺の足元に転がってきた。



打球を追っていた足を慌てて止めてクッションボールになんとかグラブを差し出すが間に合わず、足に当たってしまった。


しかし、幸運なことに、右足のインステップにたまたま当たった打球が、サッカーのように、上手くトラップした形になり、空中に跳ねたボールを右手で掴み、中継の赤ちゃんへ素早く返した。


ショートの赤ちゃんが俺からの送球を捕り、振り返った時には、2塁ランナーはホームインし、1塁ランナーは3塁へ。


バッターランナーは2塁へと到達した。


「東京スカイスターズ、タイムリーツーベースが飛び出しまして、1点返して2ー7! ノーアウト2、3塁で、バッターは1番の平柳祐太に回ります!」


6点差が5点差になり、打席には東京スカイスターズの不動の1番打者平柳。


日本代表にも選ばれる、高卒4年目の22歳。イケメン。女性ファンも非常に多い。うらやましい。


今シーズンもここまで打率3割6分5厘、ホームランも7本を記録している、東日本リーグのリーディングヒッターがファンの大声援を受けて左バッターボックスに入った。






「「かっ飛ばせ、かっ飛ばせ! ユウタ!」」」


「「かっ飛ばせ、かっ飛ばせ! ユウタ!!」」


「「かっ飛ばせー、ユーター!!」」




背後のレフトスタンドからものすごい歓声。チーム1の人気選手がチャンスの場面で打席に立ち、スカイスターズファンは大盛り上がり。



まだ点差があるとはいえ、完全に押せ押せムード。首位を走るチームのファンにも、ここから試合をひっくり返すようなイメージがある模様。異様に熱の入った応援だ。



8回まではいつもより静かな感じだったのに、ここにきての3連打で一気に息を吹き返したようだ。



「「ユータ! ユータ! かっとばせー! ユーター!!」」


あまりにもうるさいから、少し守備位置を前目にずらしたいが、打席の平柳は俊足の左バッターでありながら、レフト方向へも長打が打てるのが怖いところ。


おいそれと前進守備するわけにもいかない。


ランナー2、3塁ではあるが、まだ5点差。


今いるランナーは2人とも返したって構わない。


内野ゴロや犠牲フライでランナーを返しても構わないから、ここからアウトを1つずつ確実に取っていけば何ら問題ない。ランナーなんていないものと考えていいくらいだ。


俺はそう思っていたのだが………。


カアンッ!!


「平柳の当たりはライト線…………フェアー!!」




ぐええっ!! ライト線ギリギリに入りやがった。





俺視点からは、1番遠いところ。


平柳が引っ張った打球は、ハーフライナーとなって、ライト線ギリギリに落ちるヒットとなり、スタンドのオレンジタオルが一斉に激しく揺れる。


ライトの桃ちゃんがフェンス際まで猛ダッシしてボールを取りに行く間に2者が生還。素手でボールを拾い、ワンバウンドで桃ちゃんも懸命の返球をしたが、打った平柳は楽々2塁へと到達した。


「平柳がライト線へ2点タイムリーツーベース!!東京スカイスターズ、岸田から4者連続ヒットで6点差が3点差になりました! 依然ノーアウトです!」


回が始まって、俺の頭の上を打球が通過したくらいまでは、まだ5点差あるから大丈夫だろうと、ビクトリーズ側の人間は誰しもがそう思っていたが、このツーベースで話が変わってきた。


しかも、ライト線ギリギリに落ちるヒットだから、ちょっとたちが悪い。


3点差になり、尚もノーアウトランナー2塁となり、打順は2番に回るところ。


さすがに…………え? 大丈夫? まさか逆転なんてされないよね?


という、ビクトリーズファンによる妙なざわざわがスタジアムを包もうとしている中、2番打者の打球が右中間に上がる。


かなり大きな当たりだ。



俺は目をつむった。

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