これだから最下位のチームは

これぞ会心の当たり。文句なし。


昨年辺りから飛躍と遂げた右バッターの打球は、スーパーライナーといえる鋭い打球。バットの芯で完璧に捉え、ものすごいスピードで宇都宮の空を切り裂いたその打球に、逆風5メートルなど問題ではなかった。



左中間スタンドの最前列へ飛び込む満塁ホームランとなった。


1回表。これでいきなりの6失点である。


埼玉のブルーライトのユニフォームを着た選手が4人、ダイヤモンドをゆっくりと回っていく。


埼玉ファンの皆様はお祭り騒ぎだが、1塁、ライト方面に陣取るビクトリーズファンの皆様は皆真顔。


一気にシーンと静まり返った。


地獄だよ、地獄。


今日はスタメンじゃなくてよかったよ。


こんな時にグラウンドには出たくねえもん。


そんなことを思いながら、ベンチの反対方向にいる監督やヘッドコーチの様子を見てみると。


「………」


「………」



さっきまで心配そうにグラウンドを見つめていた監督は、今日はちょっとこのままでは持たんと言わんばかりに、ドカッと専用のフカフカチェアに腰を据えるように座り、少しうつむいた。


その横でヘッドコーチもなんとも言えない顔でグラウンドを見つめた後に、監督に向かって一応交代はまだですね? と、確認しながら持っていた手帳を閉じて腕を組んだ。





「最後もストレート。これは低めいいコースに決まりました。見逃し三振でようやく3アウトチェンジです。


しかしこの回、フェルナンドのタイムリーと内崎に満塁ホームランが飛び出しまして、埼玉ブルーライトレオンズが1回の表にいきなり6点を奪いました」


8番打者がセカンドゴロ。9番ピッチャーの3球ストレートを見逃しで三振になり、ようやくチェンジ。


いきなり大量失点を許したチームメイト達が20かかってようやく初回の守りを終え、若干とぼとぼとしながらベンチに帰ってきた。


お前らなにしてんだ! 6点も取られやがって! 金返せ、バカヤロウ!!


と俺は言いたくなったが、落ち込むピッチャーをはじめとして、チームメイトの悔しい顔つきを見たらそんなふざけてる場合ではないと考えさせられた。



まだ負けたわけじゃねえさ。1回表が終わっただけだ!



こっちもどんどん点を返して挽回していこうと、少しでもベンチ内の空気が良くなるようにと盛り上げ役に専念した。


せっかく一昨日昨日と連勝しているのに、初回に6点取られたくらいで落ち込んでいたら野球なんてやってられませんわな。


あと9回も攻撃するチャンスがあるんだから。



1点、2点。着実に得点していって相手に点を与えなければ逆転するチャンスがきますさかいに。




そう思っていた時期が俺にもありました。






「ピッチャー投げました!ワンバウンド、空振り三振!! 7番鶴石に続いて、8番守谷も低めのフォークに手を出して、空振り三振です! 3アウトチェンジ!


ビクトリーズ、8回終わっていまだに無得点!!スコアは6ー0! 埼玉ブルーライトレオンズが6点リードという形でいよいよゲームは9回表に入ります!」


行ける! 行ける! 着実に点を返していけば全然大丈夫!攻撃するチャンスはたくさんあるんだ!



とは言ったけどね。2時間半ほど前に。


しかし、一向にその返す予定の点が入る素振りがない。



やっとクリーンヒットが出たり、フォアボールを選んだりしても、2アウトからのランナーばかりなんですもの。


うちの貧弱打線ではそこから点を取るのはなかなか難しい。やっぱりノーアウトのランナーを出して相手にプレッシャーを与えていかなければならないのですよ。


しかし、6点差で負けてるのに、どいつもこいつも簡単にポンポンとポップフライを打ち上げたり、ワンバウンドするボール球に手を出しやがって。



相手ピッチャーがフォークボールを投げることは、試合前にスコアラーがずっと言っていたじゃないか。


ダメだよ。ちゃんとそういう話も頭に入れておかないと。


9回の守備にチームメイツ達が散っていく中、まだこの試合出番のない俺は、とりあえず9回ウラに代打で出場するチャンスがあることを信じて、ベンチ裏のアップエリアでバットを振ることにしよう。

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