朗報のお電話
「はいもしもしー! あらー、監督さんですか? ご無沙汰しておりますー」
電話の相手は本当に1軍の監督だった。
「はい間違いなく新井ですよ。新井時人ですよ。今2軍の新井時人ですよ。
はい。そうなんですよ。全治2週間って言われたんですけど、結構治りが早くて………はい。2軍の練習場でバッティング練習はボチボチやっております。
ええ。………あ、そういえば中学生になった息子さんはどうです? 野球やってるんすか? …………はい。………ええ。………ああー、宇都宮シニアに入ったんですか? 凄いですね!
あそこセレクションしてますもんねー。さすがは現役時代に300本打った監督さんの息子さんですねー。6年後には、高卒でそのままビクトリーズに入って4番打ってもらいたいですねー。
それで?何の話でしたっけ?
「はーい、分かりましたー!それじゃ、また明日。はい、失礼致しますー」
俺は一通り話し終えて、通話を終了して、スマホをテーブルの上にぽいーっと置いた。
そして、3人娘に向かってぐっと親指を立てた。
「新井くん。1軍?」
「ああ、あたぼうよ。俺のジツリキなら当然だな」
俺はそう胸を張って目をキラキラさせるみのりんの頭を撫でる。
「あんたに本当の実力があれば、開幕から1軍に上がっているはずだけどね」
「まあそう言うなってマイちゃん。ヒーローってのは遅れて現れるもんだから」
「そんなこと言ってると、あっという間に引退よ。次こそはケガなんてするんじゃないわよ。今のチーム状態なら、そこそこの仕事すれば1軍に居られるんだから、この前みたいに送りバントとかはちゃんとやりなさいよ」
「分かってるって」
全く。ギャル美は俺のお母さんか。
「新井さん! 私、新井さんのホームランが見たいです!」
「おう! じゃあ、明後日スタジアムに来てくれよ! 3打席連発で見せてやるから」
「はい!」
そして翌日。1軍再昇格となったこの日は見事に晴れ渡った。
「新井選手、バッティング練習開始でございます」
今日は6月3日。交流戦明けの最初の試合である。
金曜日のナイトゲームということで、18時試合開始に伴い、俺は13時過ぎにちぃーっす! と、スタジアム入り。
約2週間ぶりのビクトリーズスタジアムにやって来た俺は、まだ誰もいないスタジアムのフェンス沿いをゆっくりランニングするところから始めた。
大きく息を吸って、肩の力を抜きながらゆっくりと息を吐く。
ピンク色に染められたスタンドの椅子の鮮やかさに少し感動しながら、2周3周としばらくランニングしていたのだ。
我が北関東ビクトリーズは、交流戦が終わっても開幕から続く低迷に光が差す気配はなく、およそ60試合を消化して、5位横浜に7ゲーム差。4位東北に10ゲーム差。首位東京に対しては、20.5差と、東日本リーグのペナントレースで、気持ちいいくらいに最下位を独走しているのだ。
まあ、チーム力的には妥当と言えば妥当なのかもしれない。
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