とにもかくにも初ヒットのお祝いで。

「マイちゃん。ここにそのまま入れちゃうね」


「うん」


キッチンに戻ると、めそめそしていたギャル美が目尻に涙のあとを残しながら、またフライパンを火にかけていた。


それに気づいているのかいないのか。みのりんはその側に立ち、塩こしょうをふった肉をギャル美がふるフライパンに入れていた。


「新井さん、ちょっとどいてもらってもいいですか?」


存在を忘れていた。


玄関で靴を脱いだポニテおっぱいちゃんが、5キロの米が入った袋を抱えて俺の背後に立っていた。


「ああ、ごめん、ごめん」


みのりんとギャル美の様子を傍観していた俺は慌ててどく。



「よいしょっと。………みのりさん。お米ケースにあけちゃいますね」


「………うん、おねがい」


ポニテちゃんはキッチンに米袋を置くと、冷蔵庫の脇から背の高いクリアケースを取り出し、ハサミで開けた米袋を抱えて、5キロの生米をケースに移していた。






「はいー! ホイコーロー出来上がりー!」


フライパンで炒めていた肉と野菜をギャル美は大皿に盛り付ける。


そして俺をキッと微笑むように睨み付ける。


「ほら、あんた。ボサッとしてないで、お皿運んでグラスも用意しておきなさい」


「はい!」


ギャル美が元気になったことにほっとして、俺は言われた通りにせっせっと働く。


ホイコーローの大皿をテーブルの真ん中に置き、グラスを4つ用意して、冷蔵庫から発泡酒を取り出す。



「はい、新井くん。特もり」


「ありがとう、山吹さん」


テーブルに座ると、どんぶり茶碗にこれでもかと盛られた白飯をみのりんから受けとる。


そして、ポニテちゃんがみんなのグラスに発泡酒を注ぎ、みんながテーブルに座った。


3人娘がグラスを右手に俺を見つめる。


「それじゃあ、今日は俺のプロ初ヒット記念ということでよろしいですか?」


俺がそう聞いてみると、3人娘は揃って笑顔で頷く。


「えー、残念ながら今日からまた2軍ですけれども、とりあえずプロとしての1歩を踏み出せたということで。綺麗所の皆様方、これからも応援よろしくお願いします!! カンパーイ!!」


「「カンパーイ!!」」






「山吹さん! ご飯おかわり!」


「はい。ちょっと待っててね、新井くん」


山吹さんはそう言って、空いたどんぶり茶碗を受け取り、嬉しそうな顔でパカリと炊飯器を開ける。


「全く。いつもながらによく食べるわねえ、あんたは」


ギャル美は俺の隣で少し呆れるようにそう言ったが、彼女の作ったホイコーローが絶品だからと褒めてみると、一瞬だけ鼻ががひくつく程度に照れた顔を拝めた。


「ばーか」


テーブルの下でコツンと膝をぶつけながら、目を細めるようにして、グラスの発泡酒をゆっくりと飲み干す。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


またホカホカツヤツヤご飯を受け取り、ホイコーローと3人娘達のお顔をおかずにして、俺は白飯を頬張る。


「あっ!!」


すると、スマホをピコピコしていたポニテちゃんがはっとした表情で顔を上げた。


「………どうしたの? さやちゃん」


みのりんがそーっとポニテちゃんのスマホを覗く。



「今、プロ野球スレちゃんねるを見てたんですけど、新井さんのスレッドが立ってました」


俺は驚いた。


「え!? マジで? なんて書いてあるの?」


「はい。えっと………【悲報】北関東ビクトリーズ、ノーノーを阻止したルーキーを2軍に落としてしまう…………です」



「お、おう……。それは………俺だね」


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