静岡の旅館にて5
「さあ、続いては大阪ジャガース対新規参入北関東ビクトリーズの初対決。ジャガース先発はエース前村。見事快挙達成なったのでしょうか?」
スタジオに座るアナウンサーがそう切り出すと、アナウンサーの側のスクリーンでは、ジャガースの前村がマウンドで振りかぶっているカットに。
いかにも何かすごい記録を出したかのように煽って、試合のハイライトへと移る。
「ジャガースは自身3連勝中、エース左腕の前村。立ち上がりから、MAX152キロのストレートにスライダー。そして得意のスプリットが冴え渡り、ビクトリーズ打線を寄せ付けません。
そのエースのピッチングに、打線も答えます。初回に4連打。2回も先頭打者から、フォアボールを挟んで5連打と、序盤に7点のリードを奪いエースを盛り立てます。
回を増す毎にボールに勢いを増した前村のピッチング。
圧巻は5回でした。
先頭4番赤月をアウトコースの150キロストレートで見逃し三振。5番シェパードにはチェンジアップを振らせて空振り三振。6番桃白には、ストレート3球勝負! 最後は高めのボールに球を振らせる圧巻のピッチングに、大阪サウザンドドームは大歓声に包まれます」
回は終盤に差し掛かるにつれて、大阪サウザンドドームは異様なムード。前村はなんと1人もヒットの走者を許すことなく、8回のマウンドへ。
そして2アウトを取り、バッターは7番川田。2球目のスライダーを捉え、打球は右中間へ!!
誰もが長打コースだと思ったその打球をライト高野がこのスーパープレー!
バックの気迫こもる守備にも支えられ、いよいよノーヒットノーラン、チームとして40年ぶりの快挙へ、前村が9回のマウンドに上がります。
先頭打者は、8番鶴石。この嫌なベテランも初球変化球でファウルを打たせ、カウントを稼ぎ、最後はサードゴロ。
野手も丁寧にこの打球を捌いてまず1アウト。
そしてここで、ビクトリーズベンチが代打に送ったのは、ドラフト10位ルーキーの新井。
前村は、4年前のドラフト1位。新井は、今年支配下登録選手では全体最下位入団の苦労人。
前村のプライド、そして新井の意地がぶつかり合い、両者譲らず、カウントは2ボール2ストライク。
決め球は、何か。
バッテリーの選択は、この日冴えていたアウトコースのストレート。
新井はバットを折られますが、打球はライト線へ!!
ジャガースファンが祈るようにして見た打球の行方は、無情にもライト線上へと落下。
天を仰ぐ前村。
その後、リプレー検証も、判定は覆らずに、ついに前村はあとアウト2つのところでノーヒットノーランの念願叶わず! 思わぬ伏兵の1打に、前村もこの表情でした。
前村は、恨めしそうに俺が打った打球の方向を見つめ、キャッチャーの選手と目線を合わせ、悔しそう唇を噛んでいた。
その後ろで俺が2塁ベースの上で座っていた。
「しかし、気落ちしない前村は続く打者2人を連続三振に切って取り、ゲームセット!! ノーヒットノーランこそ逃しましたが、ハーラートップの6勝目! チームも3年ぶりの交流戦白星スタートです!」
大阪 1勝
北関東 000 000 000 0
大阪 340 000 000 7
勝 前村6勝1敗 負 広元 1勝3敗
本塁打 ー
大阪サウザンドドーム 32580人
「勝った大阪ジャガース監督は、もう少しだった。しかし、このピッチングが出来ればまたチャンスはあるよ。
前村は、最後ヒットを打たれたのが自分の弱さ。でも、チームの勝利が1番です。と、清々しい表情でした」
というところで、スポーツニュースは終わったのだが………。
「さ、あんた達もいい加減休みな」
「そうですね。おやすみなさい」
おばちゃんも女の子も、スポーツニュースを見ていたのに、俺に気づくことはなかった。
なんかかなしい。
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