桃とお尻とポニテちゃん。

「…………いたたた」


痛んだ右足に手を当ててしゃがみ込むと、3人娘が同時にテーブルの下を覗き込む。


「ちょっと、あんたまたケガしたの!?」


「大丈夫? 新井くん」


「ちょっと足を捻っちゃったみたいで……」


ご飯粒を飛ばしてキャンキャン騒ぐギャル美に、心配そうに俺の様子を見るみのりん。


そんな2人をよそに、ポニテちゃんがぐっと俺に親指を突き立てた。


「新井さん。そんな時は、私にお任せ下さい! アスレティックトレーナーを目指しているこの私に」






「新井さん! お待たせいたしました!」


約30分後。大きなカバンを持って、山名さんがみのりんの部屋に戻ってきた。


俺は椅子に座らせられる。


「ズボンまくりますよ」


山名さんが床にしゃがみ込むと、スウェットを捲った足にチューブから出したクリームを塗りたくる。


「なに塗ってんの?」


「これは治療薬クリームです。皮膚に浸透させて治療の効果を高めるものなんです。少しスースーしますからね」


それを塗り終わると、今度はファミコンのような機械を取り出す山名さん。いくつかあるコードの先には真っ黒なパッドがついている。


「これは超音波パッドです。これで内側の筋肉を刺激して、治癒効果を高めます」



2枚3枚、真っ黒いパッドで足首を巻くように貼りつけ、ファミコンのスイッチを入れる。


すると、少しピリピリした感覚が足首の周りをぐるぐる回る。


「どうです? 新井さん。痛くないですか」


「うん。ちょっとピリピリする感じ」


「それじゃあ10分くらいこのままでじっとしていて下さい」



「はーい、桃剥けたわよー!!」


ギャル美が珍しく大人しいと思ったら、食器を洗うみのりんの横で桃に包丁を入れていたようだ。


それを食べつつ、エプロン姿のみのりんのお尻を観賞しながら、時間をつぶすことにしよう。



「あんた、2軍の試合出てたんだって? どうして言わなかったのよ!」


切った桃を食べながら、ギャル美はスマホでプロ野球情報をチェックしていた。


ビクトリーズ2軍の情報に俺の名前がチラッとあったからバレてしまった。


「新井くん? 結果はどうだったの?」


「9番レフトのスタメンで出まして、フォアボール、フォアボール、送りバント、デッドボールでした」


「なによ、それ! またバントしたの? あんた!? 好きねえ。チョー、ウケるんだけど」


ギャル美がゲラゲラと笑いながら、桃をかじる。送りバントを決めるのだって大変なんだぞ。


「仕方ないじゃん。ランナーいたらすぐベンチからバントのサイン出るんだから」


「それじゃあ、新井さん。バントの構えから、打っちゃうっていうのはどうです? この前の野球ゲームでみのりさんがやったように………」


ポニテちゃんにそう言われ、確かにそれはありだなあと俺はそう思った。


ランナーが出て俺が代打で出てきたら、相手も100%バントだと思うし。


「新井さん。そろそろ超音波パッドを外してアイシングしましょう。あと、寝る時は右足を少し高くして下さいね」


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