奴等はタッチがハード過ぎていかん。
「タイム!!」
俺がファーストの子にアドバイスしてる間にピッチャーは投球してしまったようで、キャッチャーが返球すると、1塁塁審がタイムをかけた。
そして、俺の肩が叩かれる。
「キミィ。いつまでお喋りしているんだ、真面目にやりたまえ」
後ろから肩に両手を置かれ、1塁審判さんに怒られた。
「すみません」
素直に謝る俺。
そして、プレーが再開される。
ピッチャーがリードを取る俺を気にしながら、投球すると、チェンジアップかフォークボールかの変化球がワンバウンド。
その瞬間、俺は2塁へのスタートを切っていた。
塁間の半分くらいまで差し掛かった時、ボールを拾ったキャッチャーが2塁へ送球しようするのが横目で見えた。
俺は力を抜くこともなく、一生懸命2塁を目指して頭から滑り込む。
ベースをまたぐようにして待ち構えるセカンドの足元に手を伸ばし、ベースに触ってよっしゃ! と、思った瞬間にまたグラブで腕を叩かれた。
「セーフ!」
「だから痛いっての。もっとソフトタッチでお願いしますよ」
「は、はい」
全く気をつけて欲しいわよね。
ともかく、手前味噌ながら見事な判断で2塁ベースを陥れた俺はユニフォームをパタパタしながらベンチの様子を伺う。
さっき1塁にいた時に犯したおしゃべりノーリード事件で怒っていた監督やコーチ達も、この好走塁で許してやるかみたいな雰囲気になっていたので、俺はほっと胸を撫で下ろした。
よーし。こうなったら後は3塁だけ。
あとは3塁を盗んだらこっちのもんだから。
カンッ!
1番打者の当たりはショートゴロ。
ほぼ正面の当たりだが、当たりが弱い。俺は迷うことなく3塁へと走り出す。
基本的には、自分より右側に打球が飛んだら3塁へ走らないのがセオリーだが、当たりが弱かったり、相手の守備体制次第では十分に3塁を狙える。
現に3塁へスライディングを試みようとした時、ショートからの送球を待っていた3塁手はベースを離れた。
俺はそこに滑り込む。
1塁はアウトになり、1アウト3塁という場面が出来上がった。
さあ、監督さんよ。スクイズでサヨナラにするかい?
俺が3塁に到達すると、監督とヘッドコーチがこちょこちょと話をしている。
2軍の試合とはいえ、別に勝ち負けはさほど重要じゃないにしても、2軍だっていうほど勝ててないんだから。
たまにはスクイズで1点を取りにいく試合があってもいいんじゃない?
サインさえ出してくれれば、俺はホームに返ってやるぜ? 監督さんよ。
出来れば、外野フライを打てるようなバッターを代打に使ってもいいと思うけどね。
「北関東ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします」
お、代打で誰が出てくるかな? 誰かな? こんなサヨナラの場面で出てくるラッキーボーイは。
「サードランナー、新井に代わりまして、田沼。サードランナーは、田沼。背番号50」
は?
はあ!?
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