2軍で頑張る新井さん1

「今日もおはようさん! さあ、トレーニング始めるで!」


「はいよ」


いつものように、いつものトレーニングが始まる。


軽いウォーミングアップの前に10キロ走が始まり、若い女の子にけたけた笑われながら、山名さんの勤めるカフェ、シェルバーでサンドイッチを頂き、2軍の練習場に戻った俺は監督にお呼び出された。


「よう、新井。今日の試合出たいか?」


「えっ!? またオーナーに怒られるんじゃないですか?」


「大丈夫だ。ちゃんとオーナーに許可もらったから。1軍の方も、3連勝した後に4連敗だし、外野手が足りてないしな。お前をトレーニングさせてる余裕がまたなくなったんだ」


なんだかやってることが2転3転してるなあ。弱小チームあるあるだなあ。


「なんや。新井君試合に出るんかいな。また暇になるやんけ」


がっかりするなよ関西弁コーチ。なんのためのトレーニングよ。





「3回ウラ、北関東ビクトリーズの攻撃は、9番レフト新井、背番号64」


よーし、俺の打順が回ってきたぞ。1発かましたるわい!




「ボール!」





「ボール!」





「ボール!」






「ボール!」





フォアボールかよ。


せっかく初球からぶちまかしてやろうと思ったのに。




俺はとぼとぼと1塁へ向かう。



「ナイス見極めだな、新井」


1塁にいたコーチはそう俺を褒める。


「いや、全部明らかなボールでしたよ」


「そうか? 初球と3球目は際どかっただろ」


「いや。ボールっすよ、あれは」


「あ、そう」







「9番レフト、新井」


第2打席目。2アウトランナーなしで迎えた本日2打席目。


依然うちの打線はまだ点を取れていないものの、相手ピッチャーは4イニングで4つのフォアボールと、コントロールを乱しているので、それならば俺はあえてファーストストライクから積極的に振っていこうと心に決めて打席に入る。


その1球目。



ど真ん中。



当然スイングする。



カンッ!!


気持ちはレフトスタンド、スイングはライト前。しかし、打球は1塁側スタンドへのファウル。閑散としたスタンドにボールが弾む音が響いた。


今日一の絶好球を打ち損じた俺に、ベンチの中とバックネットに座るわずかなファンのおじさま達からヤジの嵐。



「ど真ん中だろ!それぐらい打てや!!」


「おいおい、今のは捉えろよー!!」






「ボール!!」




「ボール!!」




「ボール!!」




「ボール!!」





またフォアボールか。やっぱり初球の甘いボールを打っとかなきゃいけなかったんだ。



「ピッチャーの交代をお知らせします」


しかも、俺にフォアボールを出して1番に回るところでピッチャー代わるしよー。




まあ、こうなってしまったら、代わりに華麗なスチールというものを御披露目するしかないな。


2アウトだし、失敗しても怒られることはないだろう。


コーチャーのサインを見たら、最後にアゴを触る絶対盗塁はするなというサインが出ている。


俺の考えはお見通しってわけかい。


カンッ!



1番打者が代わりばなのピッチャーの初球を打った。


打球は真上に高く上がった。



ほら、初球キャッチャーフライじゃん。最悪じゃん。


走らせてくれてもよかったじゃない。

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