バントの新井さん。

「これはいい当たり!! 右中間の真ん中抜けました! 3塁ランナーに続いて2塁ランナーもホームに返って来ます! センターの柴崎から今ようやくボールが返って来ました! 東北、5回ウラ2点タイムリーツーベースで追加点! これで4ー0です!」


あー、あー、あー! なんで決め球にそんな甘い球投げるかねえ。



柴ちゃんもテレテレボールを追いかけるなよ。



その後はリリーフしたピッチャーがなんとか踏ん張り、この回は2点止まり。


しかし、連敗中のこの苦しい時に4点ビハインドはあまりにもつらい。


「8番浜出の打球は1、2塁間破っていきました!! さあ、7番鶴石8番浜出の連続ヒット!ビクトリーズ、4点差をひっくり返せるか!下位打線の連打で反撃開始です! そして打順は9番ピッチャーのところですが、代打が出るようです」


ベンチ裏で一応準備していた俺にヘッドコーチがやってきた。


「新井、出番だ。頼んだぞ」





「ノーアウトランナー、1、2塁で代打には、ルーキーの新井ですねえ。ここまで出場した2試合は、共に代打で送りバントを決めている新井です。昨日も最終回でバントを決めた新井ですが、ここは4点差あります。どうするでしょうか」


6回表。4点ビハインド。7連敗中。ピッチャーの所に代打。


あなたが監督なら、どんなサインを出しますかって話ですよ。まだ6回とはいえね。4点差ですよ。


こんなところでチマチマチマチマ送ったりしてたらね。うちの貧打線じゃいつまで経っても追い付けませんよ。


さすがにここまでデビューから2打席きっちりバントしてるんだから、ここはご褒美じゃないけど、打たせてくれたってバチは当たら………。


コン。


「これは3塁線いいバント! 3塁は無理!! 1塁へ送球! 代打の新井、この場面もいいバントを決めました。1アウト2、3塁で打順はトップに戻って柴崎に回ります」





「これも打ち上げてしまいました。………サードが手を上げた! ………ファールゾーンで掴みました! 3アウトチェンジ! 東北、満塁のピンチを無失点で凌ぎました!」


俺が送って2、3塁。柴ちゃんがフォアボールで満塁。2番高田さんが三振の後は、阿久津さんがサードへのファウルフライで結局無得点。


またしても俺が送ったランナーがホームに返ることはなかった。


まあ、それは相手だって必死だし、仕方ないことなのだが、何より俺が頭にきたのは、何回も何回も同じようにチャンスを逃しているのに、はいドンマイドンマイみたいな。


阿久津さんや赤月が打てないならしょうがないかみたいな。


半ば諦めているというか悪い意味で開き直っているような。


連敗中ってこともあるんだろうけど。


いわゆる戦う集団になっていないんですよ。何が何でもバッターを抑えてやろうとか。とにかく球に食らいついていこうとか。


そういう貪欲に戦う姿勢が感じられないわけですよ。

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