自分の信用を犠牲にしてチームに貢献するスタイル

1月30日。




今日はいよいよプロ野球のキャンプインの日。




昨今のプロ野球では、海外でキャンプを行う球団もあるくらいだが、今年からの新規参入である、我が北関東ビクトリーズは、鹿児島キャンプであることが知らされた。




昨日の晩。




栃木県は宇都宮市のホームスタジアム近くのホテルで決起集会があり、選手達にはその時に、1軍キャンプ2軍キャンプの振り分けの発表があった。




俺はどっちかなと、多少はわくわくしながら、配られた資料を確認してみると、俺はきっちりと2軍キャンプに振り分けられていた。




しかも、その中でも1番下の隅っこにやっと俺の名前があった。






それを見た瞬間、俺は怒り狂った。




監督とかコーチとか、本社の偉いおっさんとか関係ねえ。




まずは、盛り上がりに欠ける決起集会会場の真ん中で、カラオケをセッティングして、マイクを握りしめ、音楽に合わせて、ひたすらに歌い、躍り狂う。なんとかして1軍に上がりたいわけですから俺は必死だ。




だんだん周りも盛り上がってきたのが分かってさらに俺のテンションが上がる。




そこからはドラ10ルーキーの俺がやりたい放題。




途中で出てきた出来たての高価そうなローストビーフを独り占めして、肉を食らい、魚を食らい、デザートの杏仁豆腐みたいなやつまでもドボドボと食らう。最後には、目に見えたシャンパンを全部開けて、手当たり次第にイッキ飲みしてやった。






その結果、俺はキャンプインの前日に初めて飲んだそのシャンパンのおかげでべろんべろんになって、記憶をなくした。




気付いたら、自分の部屋で、小説家の眼鏡の女性に介抱されていたのだ。どうやって帰ってきたのかは覚えていない。



しかし、決起集会で1番の存在感は示した。その手応えだけはあった。あと、ローストビーフがめちゃ美味かった



そんなことがあった翌日である。時刻は午前11時。




俺は2日酔いの煽りをもろに受け、フラフラとした足取りながら、なんとか2軍の練習場へとたどり着いた。




ところが、集合時間は10時。キャンプインの初日から、1時間の大遅刻だ。




しかし、そんなことはどうでもよくなるくらい、2日酔いで体がつらい。




休みたい。練習したくない。




どうやら1軍の連中は、朝早くに飛行機で鹿児島に向かったらしい。




遅刻した俺にとっては幸運なことに、2軍のキャンプはまだ激寒の宇都宮市だ。しかも、すぐ近所。歩いてもいける距離だ。




俺は山の方から容赦なくビュービュー吹く北風に何度も吹き飛ばされながら、なんとか球場の中に入り、ロッカーに荷物を置いた。




すると、俺を待っていたかのように、知らんおっさんのコーチが現れた。




なにコーチなのかも分からん。50ぐらいの太っちょで白髪混じりのおっさんだ。




「昨日はお疲れさん。すごい大活躍だったな。みんな、喜んでたぞ。うちのチームの宴会部長はお前に決まりだな」




このおっさんは俺に何を言っているのだろうか。




酔いつぶれた俺は皮肉っているのだろうか。初対面なのに、馴れ馴れしく俺の肩をポンポンと叩いてくる。





「それじゃあ、これ。君の今キャンプのメニュー表ね」




そして、名も分からんコーチは俺に1枚の用紙を渡す。A4サイズのペラッペラの紙切れ1枚だ。




その中身を確認してみると………。






午前9時




ロードワーク20キロ。途中駅前のシェルバーにて間食




午後0時




上半身メインのウエートトレ




午後1時




食事




午後2時




短距離・中距離走り込み。間食




午後3時




下半身メインウエートトレ




午後4時




間食 上半身メイン総合トレ




午後5時




クールダウン ストレッチ








なんだこれは! 走り込みと筋トレばっかりじゃねえか。




バカにしてんのか!?




俺はまた怒りの沸騰点に達した。




2日連続でブチギレモードだ。




この球団はどうかしてるにちがいない。俺がドラ10だからって、いじわるしているんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る