真実

「父さん……」

 父は、目線をぼくに合わせながら言った。

「圭一……じいちゃんはな、おまえを親戚の前に出しても恥ずかしくない立派な男にしたいんだ」

 親戚の前に出しても恥ずかしくない立派な男。ぼくはそんな言葉が一番嫌いだった。

「本当はぼくをここに縛りつけたいだけなんでしょう……ぼくにこの家を継いで欲しいから」

「……」

 父は眉間にシワを寄せながらぼくを睨んでいた。

「じいちゃん達は古いんだよ……考え方が……」

 ぼくは狂ったように笑いながら後を続ける。

「ぼくは田舎の慣習に囚われない生き方がしたいんだよ……これはぼくの人生なんだ、なあカナデ」

 ぼくの言葉に、カナデはうんと頷いた。

「ぼくは、あなたたちが何と言おうとカナデのそばにずっといる」

 ぼくはカナデの体を優しく抱きしめた。彼女の体温が低めな体をなでていると、菜穂が寄ってきた。

「菜穂……わかってくれるのか?」

 ぼくはそう顔を輝かせたが、その期待はすぐに打ち砕かれてしまった。何と彼女は、カナデのセーターの襟首をひっつかんでぼくの腕からひっぺがそうとしたのだ。

「やめろ……」

 ぼくは何とかカナデを助けようとしたが、いわゆる文化系のぼくと体育会系の菜穂では、もはや力の差は歴然だった。彼女はカナデを軽々と持ち上げると、そのまま庭へと降りた。菜穂は泣きそうな表情の彼女をそのまま強く地面へとたたきつけた。地面に打ち付けられたカナデの全身は一瞬ノイズのようなものがかかった後、まるで砕け散るかのように消滅した。


 ***


「カナデ……」

 ぼくは絶望のあまりその場に崩れ落ちた。そんなぼくに追い打ちをかけるかのように、菜穂は言う。

「お兄ちゃん、もう諦めなよ……かなでさんはもうこの世にいないんだよ」

 彼女はさらに続ける。

「いくらかなでさんにそっくりなキャラクターを作ったからって、その代わりにはならないんだよ」

 ぼくにはもはや弁解する余地がなかった。菜穂の言うとおりだ。カナデの正体は、実体のないキャラクター、正確にはVHA(ヴァーチャル・ヒューマノイド・アシスタント)という人格を持ったホームアシスタントだ。前時代のスマートスピーカーに搭載されたそれらとは違い、VHA達はキャラクターとしての容姿や性格を組み込まれており、ユーザー達が感情移入をしやすい作りとなっている。カナデはその一つとして作られたものだ。それを作っている会社にプログラマーとして務めていたぼくは、ある時、キャラ設定に困ってる同僚からいいキャラの設定を考えてくれと言われた。だったらとびきりのやつがあると考えたぼくは、とある女性の記録を設定として差し出した。その女性こそが菜穂のいう「かなでさん」だった。


(続く)

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