危機

 カナデが起こした数々の奇跡を目にしても、祖父の態度は揺るがなかった。

「まったく……くだらん」

 ぼくはなんとかなだめようとしたが、ここでもカナデがやってくれた。

「なんか空気が重いみたいだから、いい感じのBGMをつけときますね」

 彼女が再びパチンと指を鳴らすと、部屋の隅にあるスマートスピーカーから明るい音楽が流れてきた。一見すれば空気の読めない行動に見えるが、これは周りの空気を推し量ったゆえの行動なのだ。

「……っ」

 ノリの良い音楽が流れる中、祖父の怒りは、ついに頂点へと達してしまった。彼は、いきなり立ち上がると、カナデの胸ぐらをつかもうとした。

「お義父さん!」

「おじいちゃん、やめて!」

 母と菜穂は祖父をなだめようと、肩を両脇から抑えた。これで全て丸く収まるはずだ。そこにいた誰もがそう思ったその時、カナデがこう言った。

「おじいさま、心拍数が上がってますよ–早く病院へ行った方がよろしいのではないでしょうか?」

 この一言が祖父の怒りをさらに爆発させた。彼は二人の手を振りほどくと、ぼくの首根っこをひっつかんで隣の仏間まで引っ張っていった。ぼくを無理やり仏壇の前に正座させると、祖父はこう言った。

「圭一……ご先祖様に謝れ……北山家の顔に泥を塗ってすみませんって」

 こうなったら反論はできないと、ぼくは正座したままずっと耐えた。そんなぼくの横でカナデが何やら手を動かしている。

「カナデ……何をしてるんだ?」

 ぼくが小声でそう言うと、カナデは答えた。

「ご先祖様って言葉を検索してるんです」

 まずい。ぼくはなんとかそれを止めようとするが、残念なことに、われわれのそのやりとりは祖父の耳に届いてしまった。


 ***


「……」

 ぼくは、顔を真っ赤にして体を震わせている祖父に説得を試みることにした。

「おじいちゃん……カナデはいい娘なんだ」

 ぼくは相手の顔色を伺いながら言葉を続けた。

「じいちゃんにはトンチンカンな行動に見えたけど……それは相手を思いやったがゆえの行動なんだ」

 必死でぼくはカナデのいい所を祖父に熱弁した。しかし、その努力は思わぬ人物の加勢によって水の泡になってしまった。

「もう、諦めろ圭一……じいちゃんに何言っても無駄だ」

 そう言ったのはぼくの父だった。


(続く)




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