紹介

「え……?」

 母はかけていた眼鏡を上げ下げしながら、カナデを見つめた。当の本人は、何か顔に付いてたっけ?と言いたげな表情で、首をかしげていた。焦げ茶色のもみあげだけを長く伸ばしたボブカットに、青色のハイネックセーターと灰色のミモレ丈スカート。さらに茶色いパンプス。彼女はどこからどう見ても変わったところなんて一つもない、いたって普通の女の子だ。そんなカナデを母と妹は何か珍しいものでも見るような目で見ている。彼女はしばらくカナデを凝視した後、にっこり笑ってこう言った。

「まあ……とてもかわいらしい彼女さんね」

 母は眼鏡を人差し指であげた。

「さあ、いらっしゃい……みんな待ってるよ」

 母はそう言うと、われわれを先導した。


 ***


 仏間と地続きになっている畳敷きの居間には、新聞を読みながらくつろいでいる父と、腕を組みながら目を閉じている祖父がいた。

「父さん、じいちゃん、ただいま」

 ぼくがそう言うと、父は新聞から目を上げてん、とだけ言い、祖父は左目だけ開けてぼくを一べつした。それを見たカナデも、二人に自己紹介した。

「こんにちは……圭一さんの彼女の眞秀カナデです」

 彼女がそう言うや否や、二人はギョッとした様子でカナデを見た。

「圭一……この娘とどこで知り合ったんだ?」

 父の訝しげなその視線に、ぼくは身を震わせながら言う。

「彼女は学生時代からの恋人だよ」

「ほう……」

 彼はカナデににじり寄った。身の危険を感じたのか少し顔を強張らせる彼女の顔をまじまじと見た父は、意地の悪そうな笑みを浮かべながらこう言った。

「なかなかかわいい娘じゃねえか……いつの間にこんな娘を手に入れるなんておまえらしいよ」

 一見褒めてるように見えるその言葉は、むしろぼくには皮肉に思えた。


 ***

 居間に全員が揃った所で、ぼくはあらためて家族にカナデを紹介した。

「こんにちは」

 そうにっこりとカナデはあいさつしたが、家族のほとんどからの冷たい視線は改善されなかった。ただ一人、母は彼女の事を受け入れたのかにこやかにこう言った。

「圭ちゃんにやっと守りたい人ができたのねえ……お母さんは嬉しいわ」

 その言葉にカナデは照れ臭そうに微笑んだ。ぼくも彼女に微笑みかける。たとえ一人だけだろうとカナデの事を受け入れてくれる人がいる事が嬉しかった。これで場の空気が穏やかになると思ったが、そうとはいかなかった。

「エヘン、エヘン……」

 和やかな空気を破るように反響したのは祖父のせき払いだった。

「どうしました、お義父とうさん」

 母がそう言うと、彼はギョロ目でカナデをにらみつけながらこう言った。

「圭一、ワシはそいつを認めんぞ」


(続く)


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